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サステナブルツーリズムとは何か。旅行者・事業者・地域が考えるべき持続可能な観光のあり方|JARTA × ツーリストシップ × サステナブル・ライフスタイル協会

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旅は、ただの余暇ではない。

どこへ行くのか。何を食べるのか。どこに泊まるのか。何を買い、どのように地域と関わるのか。旅行者にとっては何気ない一つひとつの選択が、地域の暮らしや文化、環境、そして土地の経済にまで影響を与えている。

サステナブルツーリズムとは、観光を単なる消費で終わらせず、地域経済、文化、自然環境、住民の暮らしを未来につなぐための考え方である。観光は本来、地域を豊かにするための手段だった。地域に人が訪れ、地元の食や文化に触れ、そこにお金が落ち、雇用が生まれる。地域の人たちは、自分たちの土地に誇りを持ち、訪れる人もその魅力に触れてファンになっていく。観光がうまく機能すれば、地域と旅行者の双方にとって豊かな循環が生まれる。
しかし現実には、オーバーツーリズム、地域文化の消費、外部資本による均質化、環境負荷、グリーンウォッシュといった課題が生まれている。観光は地域を豊かにする力を持つ一方で、地域を疲弊させる力も持っている。

では、「持続可能な観光」はどのように実現できるのか。

今回の対談では、一般社団法人JARTAの高山さん、一般社団法人ツーリストシップの田中さん、一般社団法人サステナブル・ライフスタイル協会の山口さんを迎え、サステナブルツーリズム、ツーリストシップ、観光認証、地域住民が主語となる観光のあり方について話を聞いた。

サステナブルツーリズムとは、観光を地域・文化・環境の未来につなぐ考え方

——まず、それぞれの活動について教えていただけますか?

高山:私自身も「スピリット・オブ・ジャパン・トラベル」という旅行会社を運営していますが、JARTAは旅行会社で構成されているアライアンスです。旅行会社がよりサステナブルに、地域に貢献していくためには何をすればいいのかを本気で考えている団体です。

具体的には、旅行会社対象の国際認証である「トラベライフ(Travelife)」、宿泊施設対象の国際認証である「グリーンキー(Green Key)」、海水浴場やマリーナ、観光船などを対象とした「ブルーフラッグ(BLUE FLAG)」といった国際認証を国内で導入し、日本全国で展開しています。

田中:私は一般社団法人ツーリストシップの代表をしています。私たちは「ツーリストシップ」という言葉の普及を行っている団体です。

スポーツマンシップやリーダーシップという言葉があるように、旅行者にも「良き旅のあり方」があるのではないかと考えています。旅行者が旅先に配慮し、地域に寄り添いながら旅をすることで、旅行や観光という文化・産業はより良くなっていくのではないか。その考え方を広げる活動をしています。

山口:私は一般社団法人サステナブル・ライフスタイル協会の代表理事をしています。もともとは環境、CSR、サステナビリティの領域で、企業の皆様へのコンサルティングや教育研修などに携わってきました。

企業との関わりが多かった一方で、生活者の方々からは「サステナブルと聞いても、普段の暮らしの中で何をしたらいいのか分からない」という声も多く聞きます。気候変動の影響を身近に感じるようになっている今、衣食住を含めた普段の生活の中で、どのようにサステナブルなライフスタイルを送っていけるのか。その情報提供や学びの場づくりを、企業、生活者、行政の皆様と一緒に進めています。

なぜ今、持続可能な観光が求められているのか

——今日のテーマは、サステナブルな社会の実現においてツーリズムが担う役割です。まず、今の観光にはどのような課題があると感じていますか。

高山:まず、私たちの中では、「トラベル」と「ツーリズム」を少し分けて使うことがあります。トラベルは移動や旅行そのものですが、ツーリズムというと、どういった形で旅をするのかという概念まで含んでいます。

今回のテーマはサステナブルツーリズムですが、日本では「持続可能な観光」と言われることが多いです。一方、海外では「Sustainable Development for Tourism」、つまり観光における持続可能な開発という考え方が背景にあります。今ある観光を、より持続可能なものにするにはどうすればいいのかを考えるツーリズムだと捉えています。
これまで観光業は、特に団体旅行を中心に、旅行会社が主導しながら地域振興の一つとして広がってきました。ゴルフ場やスキー場などがつくられ、観光地が発展してきた歴史もあります。今は個人旅行者も増え、観光の形は非常に多様になっています。

ただ、その一方で課題もたくさんあります。
観光によって生まれたお金が、きちんと地域に落ちているのか。地球温暖化によってスキー場の雪が減り、営業が難しくなっているにもかかわらず、ナイター営業で大量の電力を使い続けているようなケースはどう考えるのか。バスや移動に伴うCO2排出、プラスチック問題、人権、雇用、生物多様性など、観光に関わる課題は本当に数えきれないほどあります。
しかも多くの場合、事業者も旅行者も、悪意を持っているわけではありません。今まで通り観光をやっているだけなのに、知らず知らずのうちに地域や環境にインパクトを与えてしまっている。そのことに気づいていないことが、大きな問題だと思います。

——最近はオーバーツーリズムという言葉もよく聞かれるようになりましたね。

高山:オーバーツーリズムは、特にメディアでもよく取り上げられるようになりました。一つの地域に人が集中し、地域が受け入れられる範囲を超えてしまう状態として語られることが多いです。
ただ、これは単に「たくさんの人が来るから起こる」という話だけではありません。少数の人でも、地域の文脈を理解しないまま入ってしまえば、同じような問題は起こり得ます。
観光は、社会、経済、文化、環境が非常に複雑に絡み合っている領域です。だからこそ、課題も単純ではありません。

——高山さんの視点で、特に重大な課題はどこにあると思いますか。

高山:「自然に優しい」「環境に優しい」「人に優しい」ということ自体に反対する人は、ほとんどいないと思います。どの企業も、どの地域も、それは大切だと分かっています。ただ、それを言っていながら、実際にはインパクトが出てしまっていることに気づいていない。ここが一番大きいと思います。

本当に取り組んでいる事業者もいます。認証を取っているかどうかにかかわらず、真摯に取り組んでいる方々はいます。一方で、あたかも環境に配慮しているように見せかけて、実態は伴っていないケースもあります。いわゆる「グリーンウォッシュ」です。

「エコ」や「グリーン」という言葉を使って、地球に優しいように見せかけ、それをマーケティングに使っている。結果として、きちんと取り組んでいるものと、そうではないものが混在してしまっている。消費者や旅行者がそれを見分ける手段が少ないことが、非常に大きなネックになっています。

——では、事業者側はどのように取り組むべきなのでしょうか。

高山:認証の立場から言うと、まずは「基準」を見ることが大切です。基準を見ると、自分たちが何をしなければいけないのかが分かります。人間で言えば、健康診断や人間ドックのようなものです。今までは体重ぐらいしか測っていなかった人が、初めて細かい検査を受けることで、「この数値はまずい」「ここを改善した方がいい」と気づく。サステナビリティの認証も、それに近いものがあります。

旅行会社を運営するにしても、ホテルを建てるにしても、現在の制度や業界慣行の中では、サステナビリティの項目が十分に組み込まれていないことが多いです。だから事業者側は、悪気なく進めてしまうんですね。まずは、自分たちがどのようなインパクトを出しているのかを知る姿勢が必要だと思います。

旅行者は、地元では批判者になり、旅先では無頓着になる

—— 一方で、旅行者個人の意識にも課題があると思います。田中さんはどのように見ていますか。

田中:今、日本には多くのインバウンドの方が来てくださっています。その中で、マナー問題がかなり話題になっていますね。これは海外の方だけではなく、国内旅行者や修学旅行も含めた話です。
私は京都にいるので、観光の現場を身近に見ています。海外の方も、国内の方も、修学旅行生も、いろいろな形で旅行の仕方を見つめ直す動きが起きていると感じます。
ただ、面白いのは、私たちはメディアでオーバーツーリズムやマナー違反の映像を見ると、「なぜ日本に来ているのに、地域をリスペクトしてくれないのか」と思うわけです。自分たちが住民側にいる時は、旅行者に対して「もっとマナーよくしてほしい」と要求します。

ところが、いざ自分たちが旅行者側になると、急に無頓着になってしまうんです。
「朝や夜に少しくらい騒いでも、旅行だから楽しみたい」
「スーツケースは邪魔かもしれないけれど、預けるのは高い」
「自分たちが少し不便になるのは嫌だ」

そういう感覚になってしまいます。自分たちが地元側だと批判するのに、旅行する側になると無頓着になる。この状態では、サステナブルツーリズム、持続可能な観光は成り立たないと思っています。
だからこそ、旅行中に自分たちの行動へ関心を持ってもらう仕組みが必要です。私たちは「ツーリストシップ」という言葉を通じて、旅行者だからこそ地域に寄り添い、豊かな関係をつくっていこうというムーブメントを広げています。

——ツーリストシップとは、具体的にはどのような考え方ですか。

田中:ツーリストシップとは、「思いやりのある旅の仕方」です。旅先にも暮らしがあります。そこに住んでいる人がいて、日常があって、文化があります。その旅先に配慮し、貢献しながら交流を楽しむ姿勢や行動を、私たちはツーリストシップと呼んでいます。

「選びたい」と思っても、何を選べばいいのか分からない

——山口さんは、生活者や消費者の視点から、サステナブルな旅先の選び方についてどのような課題を感じていますか。

山口:お二人のお話にも通じますが、私は長く国際認証やサステナブルラベルの普及啓発に関わってきました。事業者や企業側は、サステナブルの基準に適合しなければならないという明確な要請がない限り、これまであまり取り組んでこなかった部分があると思います。世界では、独立した第三者が環境・社会・経済といった基準に照らして確認する認証が当たり前のように使われています。自分たちが「サステナブルです」と言うだけではなく、第三者がチェックすることで、消費者にも見える形にする仕組みです。そういう意味では、認証に取り組んでいる事業者や製品・サービスを選ぶことは、一定の基準を満たしているものを選ぶ一つの手段になります。

ただ、日本ではまだ認証の認知度が低いという課題があります。オーガニック、フェアトレード、森林認証のFSCなど、さまざまな認証について認知度調査をしていますが、世界に比べると日本は圧倒的に認知度が低いです。FSC®のような比較的知られている認証でも、まだ3割程度の認知にとどまっていることがあります。有機JAS(オーガニック)は多少高いですが、それでも選択の基準として十分に浸透しているとは言い切れません。

旅行の場合も同じです。
「サステナブルな旅行をしてみたい!」と思っても、どの観光地を選べばいいのか。どのホテルに泊まればいいのか。どこに行けば、自分が望む選択にたどり着けるのか。そこがまだ見えにくいのです。
環境に配慮した旅をしたいと思っても、情報が整理されていなければ選べません。逆に、環境に大きなダメージを与えているかもしれないものでも、見せ方だけが素敵だと、生活者からは分からなくなってしまいます。これはツーリズムだけではなく、日常のさまざまな分野で起きている課題だと思います。

—— 事業者側の見せ方と、旅行者側の学び。どちらが重要なのでしょうか。

山口:本当に両方必要だと思います。
海外を視察すると、事業者側にも、自分たちがやっていることを情報開示し、見える化することが求められている国があります。それがルール化されているケースもあります。
一方で、それを外にきちんと伝えることも重要です。株主だけに向けた情報開示ではなく、スーパーで買い物をする人や、旅行でホテルを選ぶ人に対して、どのようにコミュニケーションするのか。事業者側も、自分たちの取り組みを自己満足で終わらせず、伝えていかなければならないです。

他方で、生活者や旅行者側も、情報をどう取っていくのかが課題です。まだ行政を含めて情報の整理が十分ではない部分もあります。ただ、観光で考えた時に大事なのは、旅先で出会う一つひとつのものにストーリーがあるということです。ホテルで食べるもの、アメニティ、地域で購入するもの。それらを遡っていくと、誰かの事業や暮らしにつながっている。
そういう気づきを、生活者や旅行者に対してどう届けていくのか。ここも非常に重要だと思います。

観光は本来、地域を豊かにするための手段だった

——サステナブルツーリズムが日本に本当に浸透した時、どのような社会になっていると思いますか。

高山:観光の基本に立ち返ると、観光は地域のものが売れていく仕組みです。施設を建てるということもありますが、それだけではありません。今まで価値がついていなかったものを、サービスとして提供し、金銭に変えて地域に落としていく。それが観光の大きな役割です。

観光の良いところは、雇用が増えることです。地産地消を徹底すれば、地域の産物が売れていく。そうすれば地域が豊かになり、「お客さんに来てもらってよかった」と思える循環が生まれるはずです。
地域に働く場所があり、きちんと対価をもらえる。自分が生まれ育った土地に誇りを持ち、お客様に案内し、喜んでもらえる。みんながハッピーになるシナリオが、本来の観光にはあると思います。

ただ、観光地として育ってくると、そこに経済的な効果を第一に考える人たちが入ってきます。外部資本が入ること自体が悪いわけではありません。地域にないものを持ってきてくれることもあります。しかし、そこに配慮がなかった場合、結局は「自分たちが売れればいい」という話になってしまう。地域の人たちが観光を支持しているかどうかは関係なく、商売として回っていればいいという状態になる。その結果、どこにでもあるような観光地になってしまうことがあります。観光は地域の資産の上に成り立っているものです。その地域らしさが薄れていけば、観光地としての魅力も薄れていくと考えます。

——目先の集客や売上だけではなく、先々まで地域が続いていくための観光として考える必要があるということですね。

高山:そうですね。私たちが大切にしているのは、地域のDNAです。地域のルーツと言ってもいいかもしれません。観光客がその土地に来て、「ここには他にないものがある」と感じる。それが観光の魅力です。しかし、ブームに乗った観光地になると、その地域に本来ないものでもお客さんが来るようになります。写真映えするから、話題になっているから、という理由で人が来る。でもそれは、地域に本来あるものが評価されているわけではないと思います。地域の良さを知らないまま、表面的な消費だけが進んでしまう。これは観光にとって致命的なことです。地域のDNAが無視され、流行ばかりを追いかける観光地になってしまうと、地域は疲弊していきます。雇用にもつながらず、地域の誇りにもならない。本来の観光から逸脱してしまうのです。

地域の文化は、消費のスピードに飲み込まれることがある

田中:観光で怖いと感じるのは、スピード感です。地域の文化は、数十年、数百年、場合によっては数千年かけて一つひとつ築かれてきたものです。ところが、それが旅行という消費活動の中に入ると、ものすごいスピードで変化していくことがあります。

例えば、浅草や京都、鎌倉などではレンタル着物が流行っています。着物業界にとっては新しい光が当たったとも言えますし、経済的なメリットを受けている方もいると思います。
一方で、旅行者にカスタマイズされていく中で、もともとの文化から変わっていく部分もあります。最近は、真っ白や真っ黒の着物にレースが付いているようなスタイルも流行っています。かわいらしいと思う旅行者の感覚も分かりますし、私自身も一般消費者としては「着てみたい」と思う気持ちもあります。ただ、本来の文化的な文脈から見ると、違和感がある場合もあります。さらに今は「着物ガウン」のような、着付けに時間がかからず、暑くもないものも出てきています。

消費の力は非常に強いです。旅行者のニーズに合わせていく中で、もともとあった豊かな文化が、気づかないうちに形を変え、消えていってしまう怖さがあります。サステナブルツーリズムを考える上では、オーセンティックなもの、つまり本来の文化や価値をどう残していくのかが非常に重要だと思います。

山口:今のお話を聞いていて、地域の産業や体験の価値も大事だと感じました。地域によっては農業や林業が重要な文化につながっていることがあります。

例えば、森林セラピーや有機農業、CSA(Community Supported Agriculture)と呼ばれるコミュニティ(地域)支援型農業のような取り組みがあります。都市に住む人が地域に通い、農作業を手伝い、先にお金を支払い、季節ごとに収穫物を分けてもらう。そういう関わり方もあります。そこには、単なる消費ではなく、体験の価値や、伝統・文化を学ぶ価値があります。旅行者が地域を訪れることによって、地域の人たちと一緒に何かをつくっていく。そうした関係性も、これからの観光にとって重要だと思います。

観光の主語は、住民でなければならない

——では、地域の文化を守りながら、観光をアップデートしていくためには、誰がどう変わっていく必要があるのでしょうか。

高山:国連の定義にも入っている考え方で言うと、観光の担い手としての主語には「住民」が入っています。住民が観光まちづくりに含まれていないと、そもそも観光ではないという、かなり大胆な考え方です。

なぜそう言えるのか。例えば、観光協会が「地域の宝」として、地元の滝や川をホームページで紹介したとします。夏に川遊びをしてもらおうと考えるわけです。
でも、その場所が実は地域の信仰の対象で、地元のおばあちゃんが毎日花を供えに行っているような場所だったらどうでしょうか。そこに、バーベキュー目的の人や、文脈を知らない旅行者がいきなり入り、滝壺で遊び始めたら、地域の人からすると「観光協会は何をしてくれるんだ」という話になります。地域の人たちと連携せずに、地域の宝を外に出してしまうと、こうしたことが起こります。
だから、地域の人がきちんと関わり、ルールづくりをして、地域が受け入れられる内容で意思表示をする必要があります。地域にある良いものを、すべて外の人に紹介する必要はないと私は思っています。

観光には経済的なメリットもありますが、決定権は地域にも委ねられるべきです。行政主導だけでは、この部分はなかなかうまくいきません。行政は後方支援に回り、地域の人たちが主語となって観光を考えることが大切です。

山口:住民というコミュニティの基盤をどう築いていくかも重要ですよね。私自身、地域の人と都市の人が一緒に森づくりをしたり、食事をしたり、体験の価値を共有したりする取り組みに関わっていますが、地元の人たちの協力なしには成り立ちません。個人的な話をすると、私の父は宮城、母は沖縄の出身で、私は東京で生まれ育ちました。夏休みなどに祖父母のいる地域で過ごし、(季節によっては)山菜採りやキノコ狩りをしたり、畑仕事を手伝ったりした経験が、原体験として残っています。自然資本や文化を体験するということは、地域に住む人たちとのコミュニケーションなしには成り立ちません。今、そうした場が希薄になっているのではないかと感じます。
「サステナブルツーリズム」という横文字でなくても、これまで脈々と続いてきたものを、私たちがどう紡いでいくのか。そのことが今、問い直されているのだと思います。

認証は、サステナブルな選択を見える化する手段

——旅行者がより良いものを選びたいと思っていても、どれを選べばいいか分からないという問題があります。そこで認証が一つの手段になると思いますが、認証とはどのようなものなのでしょうか。

高山:認証と言うと、少し難しく聞こえるかもしれません。サステナビリティに関わる認証は世界にたくさんあります。
2008年にGSTC、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会ができました。私はその設立にも関わったのですが、当時ヨーロッパではエコラベルが200、300と乱立していました。消費者は、どのラベルを選べばいいのか分からない。事業者も混乱している。そこで、国際的に共通する観光の基準をつくろうということでできたのがGSTCです。
それ以降、GSTCが定めた基準に準拠しているかどうかが、認証を見る上で重要になってきました。中にはお金で買えるようなラベルもありましたが、そうしたものは淘汰されていきました。基準を満たしていないものは見直さざるを得なくなったのです。

現在もナショナルブランドやインターナショナルブランドなど、さまざまな認証があります。どのラベルを使うかは、ある程度勉強しないと分からない部分もあります。ただ、しっかりした認証であれば、一定程度のサステナビリティが担保されると考えていいと思います。

国内では、旅行会社向けのトラベライフ、宿泊施設向けのグリーンキー、地域向けのグリーンデスティネーションなどがあります。観光において、宿泊、飲食、体験などの事業者は「点」です。旅行会社はそれらの点をつなげ、「線」にしていく役割を持っています。そして地域全体で考えると、それは「面」になります。サステナブルな観光をつくるには、点、線、面のそれぞれが同じ理解を持つことが必要です。

サステナビリティは、経営改善にもつながる

——認証を取るというと、事業者にとっては負担が増えるようにも感じます。実際にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

高山:例えば、グリーンキーの基準では、シャワーの水量に関する項目があります。日本人は平均で1日あたり約280リットルの水を使っていると言われていますが、その多くは飲める水です。実際に飲んだり料理に使ったりする水はごく一部で、ほとんどの飲める水をトイレや洗車などに使っているわけです。日本は、水に恵まれた国です。だから水に対する危機感が低い。しかし世界的に見ると、飲める水が豊富にある国は非常に限られています。

グリーンキーでは、シャワーの水量を1分間に9リットル以内にするという基準があります。ヨーロッパではさらに厳しく、6リットル程度を目指す考え方もあります。宿泊施設において何も対策をしていないと、実際にはその倍くらいの水が出ていることもあります。サステナビリティの観点では節水が必要ですが、経営の観点から見ても、水道代が下がるというメリットがあります。

そうすると経営者も「やってよかった」と思える。さらに突き詰めていくと、エネルギーや廃棄物にも改善の余地が見えてくる。認証を、まずはコストセービングの技術として活用してもらうことが、事業者向けには大切だと思っています。
いきなり「サステナビリティをやりましょう」と言っても、仕事が増えるだけだと思われてしまいます。だから、事業者にとってのインセンティブが必要です。
認証を取っているホテルの中には、年間で数千万円単位のコスト削減につながっているところもあります。サステナビリティは、結果として環境に良いだけでなく、経営にもプラスになるのです。

もう一つ例を挙げると、ホテルの敷地にきれいな花が咲いていて、写真映えする場所があったとします。お客様も喜ぶかもしれません。でも、それが外来種だった場合、地域本来の虫や鳥が来なくなる可能性があります。事業者は、知らず知らずのうちにそうした影響を出していることがあります。認証の勉強をしていくと、一つひとつがチェック項目になっているので、気づかなかったことに気づける。より良い運営に近づいていくわけです。
これは地球環境だけの話ではなく、マネジメントの話でもあります。全社員が同じ方向を向き、企業として取り組むべきことなのです。

山口:さまざまな分野の認証を見てきましたが、大企業から広がることはよくあります。特に外資系企業から始まることも多いです。国際的には、サステナブル調達の方針があります。コーポレートガバナンスの中でもサステナビリティが重視されています。環境や人権に配慮することが当然になってきている中で、それをどう見える化するか。その手段として、一定の基準を満たしているかどうかを第三者が評価する認証があります。

重要なのは、認証そのものではなく、基準の中身です。その基準を達成することで、中小企業にとっても従業員のモチベーションが上がったり、エネルギー効率が改善したり、利益につながったりする事例はたくさんあります。
認証は魔法の杖ではありません。取得して終わりではなく、それをどう活用するかが大切です。
若手の営業担当者が、認証やサステナブルな取り組みをきっかけに新しい顧客を獲得することもあります。ツーリズムであれば、そうした考え方に共感した人がリピーターになる可能性もあります。
認証は、活用してこそ意味があるのだと思います。

SDGsだけでは足りない。大切なのは、つながりを想像する力

——SDGsという言葉は若い世代を中心に浸透してきています。一方で、旅におけるサステナブルとは何かと問われると、まだピンと来ない人も多いように感じます。

田中:私は修学旅行の学習などにも関わっていますが、今の小学生、中学生、高校生は、社会貢献への感覚を自然に持っている人が多いと感じます。利益よりも、社会に必要なことは当たり前に大事だという感覚を持っています。エコラベルを知っていたり、お土産を買う時に裏側を見て産地を確認したりする子もいます。

ただ、サステナブルツーリズムを支える根本として、旅行者と住民の摩擦が起きていることも見逃せません。どれだけ環境に良いものを選んだとしても、足元で騒がない、道を塞がない、地域に配慮するということができていなければ、住民の方に「来てくれてよかった」とは思ってもらえません。
地域に経済的・社会的に貢献することも大事ですが、感情的にも「また来てほしい」と思ってもらえる行動をすることが大切です。
サステナブルな行動もツーリストシップですし、人として来てくれてよかったと思ってもらえる旅人になることも、ツーリストシップです。学生たちにも、むしろそこを強く伝えています。

高山:SDGsは、非常に良い考え方だと思います。17の目標があることも大切です。ただ、一つのゴールだけを切り取ってしまうと危険な場合があります。例えば、ソーラーパネルを設置してクリーンなエネルギーを供給すること自体は良いことです。しかし、景観や地形を考えずに田んぼや山に設置すれば、土砂崩れなど別の問題を引き起こす可能性があります。一つのことがプラスになっても、関連する他のゴールに対してマイナスになっていないかを評価しなければいけません。そのためには、コーディネート力や想像力が必要です。
SDGsという言葉は広がりましたが、頭で考えるだけではなく、自分たちの次の世代に何を残していくのか、先人たちが守ってきたものをどう引き継いでいくのかを考える必要があります。

山口:SDGsはグローバルゴールですが、サステナブルとは、今日も明日も、そして10年後も、私たちが持続的に生きていけるかどうかという問いです。そのためには、地球環境が維持されなければなりませんし、人間だけではなく、あらゆる生物の多様性も基盤になります。SDGsという言葉で分かった気になるのではなく、改めて「サステナブルとは何か」を問い直す必要があると思います。

今の子どもたちは環境教育やSDGsを学んでいます。ただ、社会や産業の中心にいる大人世代が、まだ価値観を十分に転換できていない部分があります。5年後、10年後、今学んでいる子どもたちが社会の中心になった時、彼らが選びたいと思う企業やサービスは、サステナブルが当たり前になっているものだと思います。今のうちに企業も製品もサービスも転換していかなければ、事業活動そのものが続かなくなるという危機感を持つ必要があります。

地域を豊かにする旅へ

——最後に、より良い社会の実現のために、観光はどうあるべきだと考えますか。

田中:私自身は、観光のプロフェッショナルとしてキャリアを始めたわけではありません。大学で観光課題に向き合い、旅行者の行動を変えていきたいと思ったことから活動を始めました。その中で、サステナブルツーリズムにはいろいろな認証があり、ホテルや旅行会社、オペレーターの方々が本当に多くのことを考えているのだと知りました。
だからこそ、今まであまり意識してこなかった方にも、ツーリストシップという考え方を知っていただきたいです。自分が行くことで、旅先が少しでも豊かになるような旅行をしてみたいと思ってもらえたら嬉しいです。

そして、認証も実は面白いものです。例えば、先ほどのシャワーの水量の話もそうですが、昔は「良いホテルほど水圧が強い」というイメージがあったかもしれません。でも今は、水量が抑えられていることが、「ここは環境に配慮しているんだ」と気づくきっかけになるかもしれません。
旅行をもっと深く楽しみたい方は、事業者でなくても認証の基準を読んでみると面白いと思います。旅先や観光をサステナブルにしていくにはどうしたらいいのか。どんな取り組みを事業者の皆さんが頑張っているのか。一緒に見つめていくことが大切です。
時には担い手になり、時には「すごいね」と称賛する側になる。それも大事な関わり方だと思います。

山口:一個人として考えると、旅行や観光は、普段と違う非日常を体験できる素晴らしい機会です。大自然に触れたり、普段身近にない文化に出会ったりすることができます。
ただ、その非日常は、そこで暮らしている人たちの日常の上に成り立っています。私たちが旅行で体験する文化や食べ物、風景は、地域の方々の暮らしが続いているからこそ存在しています。例えば5年後に同じ地域を訪れた時に、同じ体験ができるのか。同じものが食べられるのか。そのためには、地域で活動している方々が持続可能な暮らしを続けられることが必要です。

ツーリズムは、それを支える一つの手段であるべきだと思います。認証は魔法の杖ではありませんが、活用することでより良い社会につながることは確かです。その先に、生物多様性や人々の暮らしが続いていくための観光のあり方がある。私自身も、ツーリストシップやグローバルな視点での取り組みを学びながら、皆さんと一緒に活動していきたいと思っています。

高山:私は旅が好きすぎて、この仕事をしているんだと思います。なかなか一箇所にいられない人生を送ってきました。
まず、皆さんには旅をしてほしいと思っています。サステナブルかどうかの前に、旅が好きだという人を増やすことも大切です。いろいろな場所に行くと、「ここは良かった」「ここは少し残念だった」と感じることがあると思います。その上で、観光をゴールとして使うのではなく、地域の課題を少しでも解決するための手段として使っていくことを、もう一度考えてほしいのです。
地域では、少子化や高齢化が進み、疲弊している場所も少なくありません。その中で、インバウンドに期待が集まっています。ただ、誰でもいいから来てもらえばいいわけではありません。観光客が来ることと、地域の課題の解決になることは別問題になってます。

その地域の素晴らしさを知ってもらい、ファンを増やし、地域に来てもらうことで、地域が豊かになっていく。観光に行けば行くほど、地域が豊かになる。それを大前提として考えるべきです。もちろん、観光には環境負荷もあります。CO2も出ますし、開発も進みます。だからこそ、それをいかに最小限にしながら地域を豊かにするのかを考えなければなりません。

もう一つ大切なのは、地域の人も観光に対して意見を言える仕組みです。この仕組みがないと、地域が産業に使われてしまいます。観光というと、「自分には関係ない」と思う人もいるかもしれません。でも、農業に関わっている方も、その食材が宿泊施設や飲食店で使われているのであれば、観光のステークホルダーの一部です。

地域、産業、行政が一緒になって、自分たちの次世代のために観光をどう使えばいいのかを考えていく。それが、私たちにとって一番の問いなのだと思います。

編集後記

「観光は、地域を豊かにするための手段である」今回の対談を通じて、まず浮かび上がってきたのは、この原点だった。旅は、旅行者にとっては非日常の体験である。しかし、その非日常は、誰かの日常の上に成り立っている。旅先には暮らしがあり、文化があり、自然があり、産業がある。旅行者が訪れる場所は、誰かにとっての生活の場所でもある。

サステナブルツーリズムとは、単に「環境に優しい旅」を意味する言葉ではない。観光によって生まれる経済的な価値が地域に還元されているのか。地域の文化や自然が消費され尽くしていないか。住民の暮らしが尊重されているか。事業者の取り組みは実態を伴っているか。旅行者は、自分の行動が地域に与える影響を想像できているか。そのすべてを問い直す考え方である。
観光の課題は、旅行者だけの問題ではない。事業者だけの問題でもない。行政だけでも、地域住民だけでも解決できない。旅行者、事業者、地域、行政が、それぞれの立場から改めて観光を自分ごととして捉え直さなければ、観光は簡単に消費の装置になってしまう。

とりわけ印象的だったのは、「住民が主語でなければ観光ではない」という視点だ。地域の魅力を外に開くことは、観光にとって重要である。しかし、地域にあるものをすべて外部に開けばいいわけではない。信仰の対象、暮らしの場、地域の人にとって大切な場所。そうしたものを、地域の合意やルールなしに観光資源化してしまえば、観光は地域を豊かにするどころか、地域を傷つけるものになり得る。

一方で、旅行者の側にもできることがある。旅先にも暮らしがあると想像すること。道を塞がないこと。騒がないこと。地域のものを選ぶこと。認証や基準に関心を持つこと。事業者の取り組みを知り、良いものを選び、応援すること。大きな社会変革の前に、まず一人ひとりの旅の見方を変えることができる。

サステナブルツーリズムは、特別な人だけのものではない。観光業に携わる人だけではなく、出張で移動するビジネスパーソンにも、家族旅行をする人にも、修学旅行に行く学生にも関係がある。自分の旅が、どこかの地域の未来につながっているかもしれない。その感覚を持つことが、最初の一歩になる。
旅は社会を変えられるのか?
その答えは、僕らが観光を単なる消費で終わらせるのか、地域を未来につなぐ手段として捉えるのかによって変わる。旅が地域の文化を守り、自然を守り、雇用を生み、住民の誇りを育てるものになった時、観光は確かに社会を変える力を持つ。そしてその変化は、次の旅先を選ぶ一人の視点から始まるのだと思う。
(編集部・石川)

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Profile

高山 傑

一般社団法人JARTA
代表理事

高山 傑

たかやま まさる

一般社団法人JARTA代表理事、株式会社スピリット・オブ・ジャパン・トラベル代表取締役、アジア太平洋エコツーリズムネットワーク(AEN)理事長。
幼少期・学生時代をアメリカで過ごし、カリフォルニア州立大学海洋学部を卒業。これまで80カ国700都市を訪問し、世界各地の持続可能な観光のあり方を体験・研究してきた。
現在は、JARTAを通じて旅行会社・ホテル・体験事業者などに向け、サステナブルツーリズムの国際基準に基づく認証・教育活動を展開。観光庁持続可能な観光ガイドラインアドバイザー、GSTC公認講師、グリーン・デスティネーションズ審査員なども務める。
「証明できないサステナビリティに意味はない」という信念のもと、観光を地域の環境・文化・経済を守る手段として再定義し、旅行者・事業者・地域がともに持続可能な未来へ向かう仕組みづくりに取り組んでいる。

公式サイトはこちら
田中 千恵子

一般社団法人ツーリストシップ
代表理事

田中 千恵子

たなか ちえこ

Instagram X(旧:Twitter) Youtube

一般社団法人ツーリストシップ代表理事、ツーリストシップグローバル株式会社代表取締役。
1998年千葉県生まれ。京都大学経済学部在学中、京都のオーバーツーリズム問題に直面したことをきっかけに、2019年に法人を設立。
2021年には、スポーツマンシップの旅行者版ともいえる「ツーリストシップ」を世界に先駆けて提唱した。ツーリストシップとは、旅先への配慮や貢献、地域との交流を楽しむ旅行者の心構えを表す言葉。
現在は、観光地で旅行者と対話しながら地域の歴史・文化・マナーを伝える「旅先クイズ会」をはじめ、修学旅行生向けワークショップ、自治体・観光事業者・大学での研修・講義などを全国で展開している。
「ツーリストシップはモラルの問題ではなく、想像力の問題」という考えのもと、旅先に暮らす人々への想像力を育み、旅行者の行動変容から観光のあり方を変えることを目指している。

公式サイトはこちら ツーリストシップ行動集
山口 真奈美

一般社団法人サステナブル・ライフスタイル協会
代表理事

山口 真奈美

やまぐち まなみ

Instagram X(旧:Twitter)

大学・大学院では、自然環境の保全と経済・社会活動を両立する持続可能な社会システムと国際認証について研究。
2003年に株式会社FEMを設立し、外資系認証機関の日本法人立ち上げにも携わり、約12年間代表を務めるなど、環境・サステナビリティ分野で20年以上活動してきた。
環境・CSR、サステナブル調達、生物多様性、国際認証などを専門に、企業への評価・提言、コンサルティング、研修・教育等に従事。環境や社会に配慮した認証を「サステナブル・ラベル」として普及し、生産・調達から消費・暮らしまでをつなぐ活動を展開。
大学・大学院の教員・客員研究員、国・自治体等の委員、各種アワード等の審査員、非営利団体の役員等も務める。
「想いと行動が矛盾しない生き方ができる社会へ」という考えのもと、現在は活動を生活者や暮らしへと広げ、人と自然、社会が調和し、誰もが心豊かに暮らせるサステナブルなライフスタイルと社会の仕組みづくりに取り組んでいる。

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石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

東京大学を卒業後、新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

「Shikisai」立ち上げの背景とは?石塚直樹が語る地域企業活性化のビジョン ウェブリカ 公式サイト

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