神戸発|NPO法人 放課後学習ボランティア支援の会 今関明子|基礎学力を支える地域連携型学習支援の仕組みとは?
兵庫県神戸市で展開されている「放課後学習ボランティア支援の会」は、基礎学力に課題を抱える子どもたちを対象に、地域住民と連携した学習支援を行うNPO法人です。理事長の今関さんは、中学校の教育現場で「学習につまずいた子どもたちが、自信を失い離脱していく構造」を目の当たりにした経験から、この取り組みを立ち上げました。
特徴は、資格を持たない地域住民がボランティアとして参加し、子ども一人に対して一人の大人がつくマンツーマン形式で支援を行う点にあります。塾とも学童とも異なるこの仕組みは、「基礎が理解できていない子どもたちに、もう一度学ぶ機会を提供する」という明確な目的のもと設計されています。
現在は神戸市内17校に広がり、学校・地域・家庭をつなぐ新しい教育の形として機能しています。一方で、マンツーマンという設計ゆえの運営課題や、資金面の制約も抱えています。
本記事では、この取り組みがどのような課題意識から生まれ、どのような構造で成り立ち、なぜ広がっているのか。その本質に迫ります。
目次
ナビゲーター紹介
今回は
石塚直樹がナビゲーターとなり、
今関明子さんのキャリアや取り組みについて伺いました。
学ぶことと生きることをつなぐ思想
石塚:まず、放課後学習ボランティア支援の会について教えてください。
今関さん:私たちは「学ぶことは生きることにつながる」という考えを大切にしています。誰でも「わかりたい」「できるようになりたい」という思いを持っていますし、同時に「誰かの役に立ちたい」「ありがとうと言われたい」という気持ちもあります。この2つを結びつけることで、子どもと地域の人をつなぐ活動をしています。
石塚:学習支援でありながら、人と人の関係性も設計しているのですね。
今関さん:そうですね。単に勉強を教えるだけではなく、人との関わりの中で学びを支えることを重視しています。
学校教育の構造的な「取りこぼし」
石塚:なぜこの取り組みが必要だと感じたのでしょうか。
今関さん:中学校で学習支援員をしていたときに、基礎が理解できていないまま進級してしまう子どもたちを多く見てきました。中学1年生の最初は何とかついていけても、方程式の段階になると急に理解できなくなってしまいます。
石塚:その段階で差が広がる。
今関さん:はい。授業は進んでいきますし、戻って復習する時間もありません。結果として「自分は勉強ができない」と感じてしまい、学習から離れてしまう子どもが出てきます。
石塚:それは個人の問題ではなく、構造の問題ですね。
今関さん:そう思います。だからこそ、小学校の段階で基礎をしっかり固めることが重要だと考えました。
なぜ「放課後」なのか
石塚:学習支援の場として「放課後」を選んだ理由は何でしょうか。
今関さん:ポイントは「自然な流れの中で学べること」です。学校が終わった後、そのまま少しだけ勉強する。この導線があることで、特別な意思決定をしなくても参加できます。
石塚:塾とは大きく違いますね。
今関さん:はい。塾は「自分から行く」と決める必要がありますが、私たちの対象はそこまでの意思を持てない子どもたちです。だからこそ、日常の延長線上に学びの機会を設計しています。
なぜマンツーマンなのか
石塚:支援はマンツーマンで行われていると伺いました。
今関さん:はい。ここは強くこだわっている部分です。一斉授業では、わからなくても理解したふりをしてしまうことがあります。マンツーマンであれば、手が止まった瞬間に気づくことができます。
石塚:つまり「理解できていない状態」を見逃さない設計ですね。
今関さん:そうです。例えば、同じ内容を4回、5回と繰り返すことで、ある瞬間に「わかった」となることがあります。この経験が次につながります。
石塚:その成功体験が重要。
今関さん:はい。「今はできなくても、続ければできる」という感覚を持てるようになります。
なぜ地域ボランティアなのか
石塚:担い手が地域住民である理由についても教えてください。
今関さん:特別な資格は必要ありません。大切なのは「寄り添うこと」です。むしろ専門家ではないからこそ、家庭に近い距離感で関われると考えています。
石塚:コスト構造の観点でも重要ですね。
今関さん:はい。専門人材だけでこの仕組みを回すことは現実的ではありません。地域の方々に参加していただくことで、持続可能な形になります。
なぜ広がったのか:営業しない拡張モデル
石塚:現在17校に広がっていますが、どのように拡大してきたのでしょうか。
今関さん:最初に関わってくださった先生方が異動先でも声をかけてくださったことが大きいです。また、保護者の方からの紹介もありました。
石塚:つまり営業ではなく、信頼の連鎖で広がった。
今関さん:はい。私たちから積極的に営業をしたことはありません。
数値で見る事業モデル
石塚:運営コストについても教えてください。
今関さん:例えば1校で、3年生と4年生を対象にすると12人のボランティアが必要になります。1回500円の交通費をお支払いすると、1回あたり6,000円です。年間35回実施すると、1校あたり21万円弱の費用(月 17,500円)になります。
石塚:非常に明確なモデルですね。
今関さん:はい。この単位で支援を広げていくことができます。
社会的意義:教育と高齢化の交点
石塚:この取り組みの社会的意義をどう捉えていますか。
今関さん:子どもにとっては学習支援ですが、地域の方にとっては社会参加の機会になります。特に高齢者の方は、活動を通じて人との関わりを持つことができます。
石塚:双方に価値がある。
今関さん:はい。子どもも大人も、関わりの中で元気をもらっています。
今後の展望と課題
石塚:今後の展望について教えてください。
今関さん:神戸市には約160校ありますが、現在は17校にとどまっています。どの学校にも同じ課題があるので、さらに広げていきたいです。
石塚:課題は資金面でしょうか。
今関さん:そうですね。現在は助成金に依存している部分があり、持続性に課題があります。企業の方々に支援していただけると、より広げていけると思います。
人との関わりが学びを支える
石塚:最後にメッセージをお願いします。
今関さん:子どもたちは日々多くのことに向き合っています。その中で、少しゆっくり学びたい子どもに寄り添うことは大切だと考えています。人との関わりの中で、みんなが元気になれる社会をつくっていきたいです。
編集後記
本取り組みの本質は、「教育の補完」ではなく「構造の再設計」にあると感じた。学校教育は一斉進行を前提としているため、理解が遅れた子どもを個別に支える余白が限られている。その隙間を、地域という外部リソースで埋める設計がこのモデルである。
特に注目すべきは、マンツーマンという高コスト構造を、地域ボランティアで実現している点だ。これは単なるコスト削減ではなく、価値交換の再設計である。子どもは学習機会を得る一方で、地域住民は社会参加の機会を得る。この双方向の価値が、持続性を支えている。
また、拡大が営業ではなく信頼によって進んでいる点も重要である。制度的な拡張ではなく、現場の実感がネットワークとして広がる。このモデルは、他地域への展開可能性を持つ。
教育格差、高齢化、地域の希薄化。これら複数の課題に対して、一つの仕組みで応答している点に、この取り組みの本質がある。
ご紹介
Profile
NPO法人 放課後学習ボランティア支援の会
理事長
兵庫県神戸市在住。
中学校で学習支援員として勤務する中で、基礎学力が定着しないまま学習に自信を失う子どもたちの課題に着目。地域住民と子どもをつなぐ放課後学習支援を立ち上げる。
現在は神戸市内17校に展開し、マンツーマンによる基礎学力支援と自己肯定感の回復に取り組んでいる。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。