「人間関係を最重要とする組織運営をしたい」。
そう語るのは、資金調達支援を軸に事業を展開する株式会社フルサポ 創設者・沖本大和さんです。IT業界を経て起業し、補助金・融資といった分野に身を置く中で、沖本さんは業界に残る不透明な慣行に強い違和感を抱いてきました。
完全成果報酬型の支援モデル、AIを活用した徹底的な業務自動化、そして年間100日以上を旅しながらも成長を続ける事業。その背景には、挫折や体調不良といった個人的な経験を通じて形成された、明確な価値基準があります。本記事では、石塚直樹との対話を通じて、沖本大和さんが何を大切にし、どのように会社と人生を設計してきたのかを、会話の流れそのままに丁寧にひもといていきます。
今回は、ウェブリカの石塚直樹がナビゲーターとなり、
株式会社フルサポ 創設者・沖本大和さんに、キャリアの原点から現在の事業、組織づくり、そして今後の展望までを伺いました。
目次
挑戦の原点|「強みを失った」経験から始まった問い
石塚:
本日はよろしくお願いいたします。まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか。
沖本:
こちらこそ、よろしくお願いいたします。株式会社フルサポの創設者をしております、沖本大和と申します。補助金や助成金、融資など、資金調達に関わる支援事業を、5年ほど前から行っています。
石塚:
もともとはIT業界にいらっしゃったと伺いました。
沖本:
はい。まったく別の業界にいましたので、当時は自分が資金調達の事業をやるとは思っていませんでした。ただ、起業そのものを志した背景は、かなり個人的なところにあります。
石塚:
その原点について、ぜひ伺いたいです。
沖本:
高校時代に、大きな挫折を経験しています。地元の進学校に進んだことで、周囲は同じレベルの人ばかりになり、それまで感じていた「自分の存在意義が一気に無くなった」という感覚がありました。
石塚:
環境が変わることで、見え方も大きく変わりますよね。
沖本:
そうですね。スポーツもそれなりにやっていましたが、運動部が盛んで、試合に出ることもほとんどありませんでした。そこで、自分には強みがないと感じるようになり、自信を大きく失いました。
経営者志向の芽生え|反骨心が向かった先
石塚:
そこから、どのように経営者という道に向かわれたのでしょうか。
沖本:
かなり単純な発想でした。プロスポーツ選手にもなれないし、タレントになるわけでもない。では、目立つためにはどうすればいいかと考えたときに、「社長になるしかない」と思ったのです。
石塚:
率直な動機ですね。
沖本:
今振り返ると安直だったと思います。ただ、他人から馬鹿にされていると感じるエネルギーを、何か別の形で返したいという気持ちは、当時かなり強かったです。
石塚:
その反骨心が、行動の原動力になっていったのですね。
沖本:
そうだと思います。就職先も、経営者が多く生まれるような環境を選びました。
独立のきっかけ|人間関係が途切れた瞬間
石塚:
その後、独立に至るきっかけは何だったのでしょうか。
沖本:
前職では中間管理職のような立場で、仕事自体はそれなりに順調でした。ただ、とあることをきっかけに体調を崩してしまいました。いわゆる適応障害のような状態です。
石塚:
ご自身でも、予想していなかったのではないですか。
沖本:
まったく想定していませんでした。人当たりは良いほうだと思っていましたし、自分が仕事に行けなくなるとは考えていませんでした。
石塚:
そのとき、どんなことを考えられたのでしょう。
沖本:
仕事を休む中で、ふと周囲を見渡したときに、仕事以外の人間関係がほとんど残っていないことに気づきました。友人の誘いも断り続け、家族とも長い間会っていなかったのです。
石塚:
連絡が来るのは、仕事関係ばかりという状況ですね。
沖本:
はい。本当に自分を大切に思ってくれていた人たちとの関係を、自分自身で断ち切っていたのだと、そのとき初めて自覚しました。
価値観の転換|「人間関係」を軸に生きる
石塚:
その経験が、価値観を大きく変えたのでしょうか。
沖本:
はい。人生において一番重要なのは、人間関係だと心から思うようになりました。よくある話だと思いますが、ビジネスの関係は多くの場合お金を介して成り立ちますが、学生時代の友人関係はそうではありません。
石塚:
一緒にいて楽しいかどうか、という基準ですね。
沖本:
その通りです。そうした関係を、これから新しく築くのは簡単ではありません。だからこそ、今ある人間関係を大切にしたいと強く思いました。
事業の始まり|労働集約を避ける設計
石塚:
その価値観をもとに、最初はどのような事業を考えられたのでしょうか。
沖本:
まず、自分が労働集約的にならない働き方を前提にしました。自分がいなくなった場合でも回り続ける事業をつくりたいと考えていました。
石塚:
そこでアパレル事業に取り組まれたのですね。
沖本:
はい。今思えば短絡的ですが(笑)。結果として、その事業は売却まで進みました。
補助金業界との出会い|強烈な違和感
石塚:
そこから、現在の資金調達支援事業につながっていくのですね。
沖本:
売却後、新たな事業を始める中で、補助金を活用しようとしました。そこで、業界の実態を知ることになります。
石塚:
どのような点に違和感を持たれたのでしょうか。
沖本:
採択された時点でお金がもらえると誤解させる説明や、実現不可能な事業計画、採択時点で発生する高額な報酬などです。自分自身も、結果的に補助金を辞退せざるを得ない状況になりました。
石塚:
それは大きな経験ですね。
沖本:
この業界は変えられると、そのとき強く思いました。最後まで伴走し、実際にお金が入ってから報酬をもらう。それが当たり前であるべきだと考えました。
融資支援への拡張|資金調達は「ワンセット」
石塚:
補助金支援から、融資支援にも広がっていった背景を教えてください。
沖本:
補助金のサポートをしていると、「採択されたが、使うお金がない」という相談が非常に多かったです。補助金は後払いなので、先に資金が必要になります。
石塚:
そこで金融機関との連携が生まれたのですね。
沖本:
はい。実際に、創業時300万円規模だった融資枠を、800万円まで引き上げたケースもありました。この経験から、資金調達は補助金と融資を分けて考えるものではないと確信しました。
AI活用と自動化|時間を生み出す仕組み
石塚:
年間100日以上旅行されていると伺いましたが、その時間はどのようにつくられているのでしょうか。
沖本:
AIの活用が大きいです。新規営業のリスト作成から、文面作成、日程調整まで、できる限り自動化しています。(2025年11月時点)
石塚:
営業当日に初めて人が出る、という形ですね。
沖本:
はい。その設計によって、人が考える時間を最小限にし、時間を生み出しています。
働き方と組織|家族を最優先にする
石塚:
スタッフの皆さんは、どのような働き方をされているのでしょうか。
沖本:
1日5〜6時間働く方が多いです。主婦の方も多く、子育てを最優先にしています。スタッフは40名ほどいますが、全員が私の知り合いです。
石塚:
かなりユニークな組織ですね。
沖本:
信頼関係を大切にしています。自分が働きたい人と働くことが重要だと考えています。
時間の使い方としては、まずは家族、その次に仕事、という順番です。
今後の展望|身近な人の自由を広げる
石塚:
最後に、今後のビジョンを教えてください。
沖本:
「身近な人の自由をつくる」という考え方を、より広い範囲に広げていきたいです。資金調達に限らず、企業の財務を包括的に支える存在を目指しています。
編集後記
沖本さんは話を通じて強く残ったのは、「事業の伸ばし方」より先に「関わる人がどう生きるか」を起点に設計している点でした。人間関係を最優先に置くという価値観は、単なるスローガンではなく、採用の考え方(信頼関係のある知人中心)、働き方(家族を優先できる稼働設計)、さらにAIを用いた営業・日程調整の自動化といった運用の細部にまで落ちています。
その結果として生まれているのが、沖本さん自身の生活リズムや旅の多い暮らしであり、同時にスタッフ側にも「時間の自由」と「経済的な余白」を渡そうとする姿勢です。効率だけを見れば非合理に映る部分もありますが、どの前提を優先するかを明確にし、そこから逆算して仕組みを組んでいるため、矛盾が少ない。理念と構造が一致している経営は、言葉よりも運用の整合性によって説得力を持つ——そのことを確認できた取材でした。
ご紹介
Profile
株式会社 フルサポ補助金
創設者
IT系企業での勤務を経て独立。補助金・助成金・融資など、企業の資金調達を一体で支援する株式会社フルサポを創設し、「フルサポ補助金」「ふるさと融資」を展開している。
会社員時代に過度な業務負荷や人間関係による不調を経験したことを機に、家族や身近な人を犠牲にしない働き方を志向。独立後、アパレル・雑貨事業の立ち上げと事業売却を経て、コロナ禍で自身が補助金申請を行った際の不誠実な支援業者との遭遇をきっかけに、着金完了後のみ報酬を受け取る完全成果報酬型の補助金支援を開始した。
現在は金融機関との連携による融資支援にも取り組み、AI活用と業務自動化を通じて、フルリモート体制のもと年間約100日を家族との旅行に充てる経営を実践している。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。