福井県福井市で繊維加工とアパレルプリントを手掛ける 藤間商事株式会社。
先代が立ち上げた葬儀幕加工の技術を起点に、「ヒートカット」という特殊加工を武器に事業を展開してきた。しかし2000年前後から葬儀スタイルの変化により需要が減少。経営の転換を迫られる中、代表の 藤間 泰光(ふじま ひろみつ)さんは、33歳で脳出血を経験し、右半身麻痺と失語症という重い後遺症に直面する。どん底の状況から再起し、2020年にオリジナルプリント事業を立ち上げた藤間さん。その背景には、「喜ばれる仕事をしたい」という強い想いがありました。今回は、藤間商事が紡いできた歴史と、藤間さん自身の人生の転機について伺いました。
目次
葬儀幕加工から始まった藤間商事の歩み
石塚:
本日のゲストは、藤間商事株式会社 代表取締役社長の藤間さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。
藤間さん:
よろしくお願いします。
石塚:
まず簡単に自己紹介をお願いできますか。
藤間さん:
福井県福井市で繊維事業とアパレル事業をしております、藤間商事の藤間泰光と申します。弊社はもともと繊維業から始まった会社で、お葬式の幕やのぼり旗、タペストリーなどの生地加工が多かったです。
石塚:
その繊維事業を続けながら、新たにアパレルプリント事業を展開しているのですね。
藤間さん:
はい。Tシャツ、ポロシャツ、パーカー、バッグなどにオリジナルプリントをして、繊維事業とアパレルプリント事業の二本柱で経営しています。

需要減少と新たな事業を探し続けた数年間
石塚:
もともとの葬儀用の幕はどんな経緯で始まったものなのですか。
藤間さん:
父が創業して始まった会社で、当時はお葬式の幕の注文が全体の95%くらいでした。昔は寺や自宅、公民館などで葬儀を行うことが多く、幕を吊って終われば外して、使い捨てる形でしたので、ものすごい数が出ました。
石塚:
需要が減少し始めたのはいつ頃ですか。
藤間さん:
2000年くらいからですね。セレモニーホールが増えて“吊りっぱなし”の形になり、うちの仕事の需要も少なくなっていきました。
石塚:
新しい事業の模索はどれくらい続いたのですか。
藤間さん:
7〜8年ですね。ヒートカットという技術を使って何かできないかと探していましたが、継続的な案件はなく、“どうしよう”という日々でした。
33歳で襲った脳出血──右半身麻痺と失語症との闘い
石塚:
その中で、人生最大の転機ともいえる病気をされたと伺いました。
藤間さん:
33歳のときに脳出血になり、右半身が使えなくなりました。2週間以上意識がない状態が続き、命の危険があると言われました。
石塚:
過酷ですね。その時の具体的な記憶はありますか。
藤間さん:
2週間が1年くらいに感じるほど長く感じました。MRIの音がずっと響いているような感覚でした。
藤間さん:
右半身が使えなくなったのと同時に失語症にもなり、言葉がうまく出ませんでした。喋れない状態がしばらく続き、思い通りに何もできず、“今後どうなるんだろう”と本当に悩みました。
石塚:
そこからどう回復していったのですか。
藤間さん:
リハビリを続け、今は右半身は不自由ですが運転できるところまでは回復しました。行動範囲が広がり、気持ちも少しずつ前向きになりました。
石塚:
病気を経験して、今の仕事観に影響はありましたか。
藤間さん:
壮絶な病気をしたので、“今やりたいことをやろう”“楽しくやろう”“喜ばれる仕事をしよう”と思うようになりました。
2020年、コロナ禍でのアパレルプリント事業スタート
石塚:
アパレルプリント事業を始めたきっかけを教えてください。
藤間さん:
知り合いに新しいことを相談して、提案を受けてやってみたのがきっかけです。
納品したときに「こんなの欲しかった」とすごく喜ばれ、今まで経験したことのない喜びでした。
繊維事業は中間業者との取引で直接エンドユーザーと接しないので、その声が衝撃でしたね。
石塚:
開始したのはコロナ禍の2020年ですよね。
藤間さん:
はい。イベントがなくなりTシャツの需要も減って、仕事が減っていくのがわかっていたので“やるしかない”という状況でした。
石塚:
立ち上げ時は不安な気持ちはありましたか。
藤間さん:
不安で眠れませんでした。冬場でTシャツの需要も減る時期で、プリンターを入れたのが10月末。
仕事がないのにプリンターのインクだけ減っていく音がして辛かったです。

DTFプリントという技術と、地域に広がる信頼
石塚:
プリント方法について教えてください。
藤間さん:
DTFプリントといって、シートに印刷して熱圧着する方法です。Tシャツ、バッグ、パーカーなどに対応できます。剥がれもほとんどありません。
石塚:
現在、地域の依頼が多いのですか。
藤間さん:
地域のスポーツ団体、公民館行事などが多いです。1枚から作れるので個人の方も多いですね。
石塚:
デザインはどう対応されていますか。
藤間さん:
簡単なものは私が作り、難しいものはデザイナーに依頼します。AIも活用しています。
さらに、Tシャツソムリエという資格も取得しているため、素材や手法に合わせて提案できます。

今後の展望──硬い素材へのプリントと広がる可能性
石塚:
今後挑戦されたいことはありますか。
藤間さん:
スマホケースなど硬いものにも印刷できるようにしたいです。
補助金が採択され、2025年12月に新しいプリンターが入ります。
これでマグカップ、タンブラー、ヘルメットなどにも対応したいです。

石塚:
枚数の相談もしやすいのですか。
藤間さん:
はい。30枚以上なら1枚サンプルを無料で作って、お客様に確認していただいてから量産しています。
石塚:
地域との関わりも大事にされていますね。
藤間さん:
妻、スタッフ、地域の方に本当に助けられてきました。イベントのTシャツなど、地域の方々から多く依頼をいただけています。
石塚:
最後にメッセージをお願いします。
藤間さん:
病気になったり、繊維の仕事がなくなったり、コロナもあったりと色々苦労しましたが、周りの人に助けられてきました。これからも笑顔を作る仕事を続けたいです。オリジナルTシャツやグッズを作りたいときはぜひご相談ください。

編集後記
藤間さんのお話を伺って、言葉の一つひとつに重みがあると感じました。葬儀幕という地域の暮らしに密接な仕事に長く携わり、時代の変化とともに事業の縮小を受け止めながらも、新しい道を探し続けてこられたことが伝わってきます。試行錯誤の期間が長く続いた中で、33歳の脳出血という大きな出来事に直面されたことは、想像を超える経験だったと思います。
その状況からリハビリを経て再び経営に向き合い、アパレルプリント事業に挑戦された姿勢には強い意志を感じました。特に「初めて納品したとき、喜ばれたことが衝撃だった」という言葉は、とても印象的です。使う人の声に触れた瞬間に、大きな気づきがあったことが伝わります。
現在では地域のスポーツ団体や個人の方からも多く依頼があり、1枚から丁寧に対応されている姿勢も、藤間さんの仕事観に通じているのだと感じます。これまで支えてくれた地域へしっかりと恩返ししたいという気持ちも強く伝わりました。
これから硬い素材へのプリントなど、新しい技術への挑戦も進むとのことで、事業の広がりが楽しみです。藤間さんの姿勢そのものが、地域に前向きな色を添えていくように感じました。
ご紹介
Profile
藤間商事株式会社
代表取締役社長
福井県福井市・藤間商事株式会社 代表取締役社長。
先代が創業した同社に入り、葬儀の幕加工を中心とした繊維事業に従事。
2000年頃から葬儀幕の需要が減少し、新たな事業を模索する期間が続く中、33歳で脳出血を発症し右半身麻痺と失語症を経験する。
リハビリを経て業務に復帰し、2020年にアパレルプリント事業を開始。
Tシャツ・パーカー・バッグなどのDTFプリントに取り組み、「喜ばれる仕事をしたい」という思いを大切に、地域の依頼にも幅広く対応している。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。