東京都江戸川区に拠点を置く関東商事株式会社。
ドライアイスの加工販売を起点に、定温物流資材の販売、運送事業へと事業を広げてきた会社だ。
代表取締役の栗本涼さんは、祖父・父が築いてきた事業を30歳で引き継ぎ、2022年に代表に就任した。
「種を植えてようやく芽が出てきたところを、いかに成長させていくか」——その言葉に、栗本さんの役割への自覚が滲む。
目次
ドライアイスから始まった会社の原点
——まず、会社の成り立ちを教えていただけますか。
栗本: 当社が立ち上がった理由としては、元々祖父の代で運送業を営んでいまして、岩谷産業さんのLPガスのガスボンベの配送を手がけていたんです。そこへ平成元年頃に、岩谷さんがドライアイスの販売を始めるにあたって、販売会社を担ってもらえないかという依頼を受けたのが当社の始まりです。
ドライアイスというのは基本的に石油精製から出るCO2などを回収して作るものです。当社は最後発だったんですが、祖父がその販売会社を引き受けたというのが起点ですね。
——最初の頃はどんな状況だったんですか。
栗本: 最初の5年ぐらいはなかなか売り先が広がらなくて、1日に数百km程度、岩谷さんのお客さんのところにドライアイスを納品するというのが主な業務でした。それだとなかなか赤字から黒字に転換できない状態で、ずっと伸び悩んでいたんですね。
赤字続きの事業をどう立て直したのか
——そこからどう変わっていったんですか。
栗本: そのタイミングで父が入社することになりました。父は当初、電子部品メーカーで営業マンをしていて、関東商事を立ち上げる時から参加してほしいというオファーを受けていたんですが、やりたいことが他にあるからとずっと断っていたんですね。ところがバブルが崩壊していく中で、自分の部下の首を切らないといけない立場になった時に、何も悪くない部下の首を切るくらいなら自分がやめますということで、そのタイミングで自分でも社長をやってみたいという気持ちもあったので、祖父からのオファーを受けて入社したという経緯です。
——父の代でどう事業を発展させていったんですか。
栗本: まず売り先をどこに広げるかというところから試行錯誤を重ねて、冷凍食品やアイスクリームといったところに使われるケースが多かったので、そこへの販路を拡大していきました。
その中でお客様からニーズを聞いていくと、当時の流通では1締め10kgで納品するのが主流でした。ただドライアイスというのは時間とともに気化して消えていくものなので、お客さんの手元に届いた時には8kgだったり7kgだったりする。加工した時点から量が減っていくんです。それが当時の業界としては、どのタイミングで使うかによって実際何kgあったのかも「まあいいや」というくらい適当な管理だったんです。
なのでまず、お客さんの手元に届いた時点でちゃんと10kgあるという取り組みを強みとして打ち出していきました。加えて、当時はお客さんのところに設置されている容器にドライアイスを入れるという業務が主体だったんですが、その容器の断熱性能が乏しくてどんどん消費されてしまうというロスも解消したいということで、自社で開発した断熱容器に入れてお客様のところに置いてくるという形にしていきました。
「ちゃんと10kg届ける」から生まれた強み
——ドライアイスを販売する先は具体的にどんなところになるんですか。
栗本: 一番多いのは食品の物流ですね。工場から作られたものを出荷して物流センターまで運ぶ、あるいは物流センターからコンビニの店舗まで配送する際に、冷凍食品が溶けないようにドライアイスを入れるという使い方が多いですね。
——会社としての強みはどこにあると思いますか。
栗本: 当初から、温度管理をしてどれだけドライアイスを長時間保持できるかという具体化に力を入れてきました。実際に温度計を容器の中や商品のところに取り付けて、ドライアイスを何kg入れたらどれだけの時間保持できるのかをデータ化したんです。それによってお客様も、これだけの量を入れればこれだけの時間持つから、ドライアイスのコストはこれだけで済むんだということが明確に分かりやすくなりました。
そういった温度のデータを日常的に取り続けてきたので、今この業界で温度管理の精度がどんどん求められるようになってきている中でも、弊社は長い歴史の中で積み重ねてきたデータがあります。例えばこれくらいの温度でこれくらいの時間運びたいんですがどれくらい入れたらいいですかと聞かれた時に、すぐに回答・提案できるというのが強みですね。
“定温物流”はなぜ求められるようになったのか
——温度管理というキーワードが出てきましたが、会社では「定温物流」という言葉を使われていますよね。これはどういう意味ですか。
栗本: 下はマイナス196°から上はプラス40°ぐらいまで、定めた温度で管理するというところから、定温物流といいます。低い温度だけでなく、例えば体温に近い36°から37°で運ばないといけないというケースもあります。検体や再生医療の関係だと15°から25°の温度帯だったりとか。先生の判断によって温度帯が変わるということもあって、一概にこの温度とは言えないケースもあるんですが、そういった幅広い温度管理をカバーできるというのが当社の特徴です。
——医薬品の分野でもニーズが強いですか。
栗本: そうですね。コロナの時にニュースにもなりましたが、ワクチンをマイナス80°で保管しないといけないというところで、そういった温度ロガーを使っていただいて、保管していた期間ちゃんと定められた温度を上回っていないかを確認するということができます。このメーカーさんからの依頼を受けて販売を広げてきたのは、もう10年近くになりますかね。現在は、世界各国の高い基準を求められるお客様が非常に多くなってきているので、温度管理の精度を求められるお客様は年々増えてきています。
家業を継ぐか、自分の道か——30歳の決断
——栗本さん自身が会社に入られた経緯を教えていただけますか。
栗本: 幼い頃からずっと関東商事の現場は見てはいたんですが、当時は父から「お前に継がせるつもりはないから、自分の好きなことで独立したらいい、それに対するサポートはする」と言われていたんですね。僕は幼い頃から車が大好きだったので、車の整備の業界で10年ほど勤めていました。
ただ、20代半ば頃に30歳になる時に、会社を継ぐか自分の好きなことをしていくかを決めてほしいと言われたんです。
色々と考えていく中で、整備業界では給料としては周りと比べれば良い待遇をいただいてはいたんですが、頭打ちのところも見えてきていました。自分で独立することも考えはしたんですが、それよりも関東商事があったからこそ、ここまで大きくなれたということもありましたし、幼い頃から見てきた従業員の方々がまだ勤めているので恩返しをしたいということもありました。一番大きかったのは、自由にやらせてきてもらった中で唯一の両親への恩返しができることとすれば会社を継ぐことだというところで、入社を決めたという感じですかね。
——入社のタイミングはいつですか。
栗本: 30歳には入るという決断をしていたんですが、ちょうどそのタイミングで整備場の長を担うような形になって、実質的なリーダーの経験を積んでからにしようということで、1、2年経験してから実際に入社したのは2018年、31になる年ですかね。
——入社してからのキャッチアップはどうされたんですか。
栗本: やっている仕事の内容はおよそ分かっていたんですが、商品の知識や取引先がどういった使い方をしているのかという知識がなかったので、まずは営業に同行したり現場を見たりしていました。特に中心になっていたのは低温物流資材の受注から出荷までの一連の業務で、2、3年ほど担っていましたね。並行して、当時立ち上げて5年ほどで赤字路線だった運送部門も、車の知識を生かして全部取り仕切れということで最初から任されていました。
代表就任後、最初に変えたこと
——2022年に代表に就任されましたが、就任の経緯は?
栗本: 父が68歳で引退するという予定で、そのタイミングで代わるという話だったのが、2年ほど早まったんです。父から言われたのは、思い描いていたよりも早く会社のことを覚えたということもあるし、財務のところを引き継ごうと思ったら数年かかるから、自分が元気なうちに引き継いでおこうということで、2022年に就任しました。
——就任後に変えてきたことはありますか。
栗本: 父はどちらかというと昭和世代で、自分が決めたことに対してまっすぐ突き進んでいって、従業員がついてこないことがあったらなんでそうなんだというタイプでした。僕は現場目線も経験してきているので、現場の意見をまず聞き入れて、実情を把握した上でここが間違っているよねというところを整理して伝えるようにしました。父は今も会長職として会社の方向を決める権限を持っているので、いきなり父に言いにくいという時に一旦僕のところを通すことによって、従業員たちが話しやすくなったということは言っていただいています。
現場を知る社長がつくる組織
——現在の従業員数と職種の内訳を教えていただけますか。
栗本: 従業員数は55名ほどです。
ドライアイスの加工作業をしている社員が約5名、
梱包作業などを担当していただいているパートさんが数名、
バックオフィスの営業・事務員が合わせて約10名、残りは全てドライバーです。
——ドライバーの採用はなかなか難しいと聞きますが。
栗本: そうですね、当社においてもドライバーの採用はなかなか思うようには進んでいないです。ただ、求人広告の内容と実際が違っていたという声をよく聞くので、当社はできるだけ事実を包み隠さず伝えるような書き方に注力しています。入社前に現場見学もしていただいた上で、これだったら働けそうだということであれば入社いただいて、できるだけ長く定着していただけるような体制を整えています。長時間労働の是正や、収入の波をできるだけ少なくして一定の収入が得られるような取り組みもしています。
——専門的な知識が必要になりますよね。
栗本: 運送事業で今主軸となっているのは食品の物流で、飲食店やスーパーへの配送など一般的な運送会社がやっているところが多いんですが、医薬品の物流やドライアイスの配送に関してはトラックの荷台の温度管理がちゃんとされているかとか、運ぶものの箱の性能や機能についてドライバー一人一人に理解してもらわないといけないので、通常のドライバー業務よりは覚えることが多い分、そこを対応できる分は若干の上乗せやインセンティブを出すという対応をしています。
ドライアイスの先へ——第2の柱をつくる
——今後の展望を教えていただけますか。
栗本: ドライアイスに関しては、カーボンニュートラルという流れの中で、電気自動車やハイブリッド車が増えて燃料の使用量が年々減ってきています。ドライアイスの原料はその石油精製の副産物なので、原料も少なくなってきているんですね。なくなることはないにしても、ロングテールで衰退していくというのは想定しています。
そこに変わる第2の柱として、今手がけている定温物流資材の分野に着目しています。医薬品の業界はもちろん、精密機器や半導体もどうしても温度管理が求められているので、そういったところに着目していきたいと思っています。
まだまだ温度管理が厳密にできていないお客様や、今後さらに厳しく管理していかないといけないというお客様は多くいらっしゃいます。そこに対して最適な提案をしていく中で、今後は資材を販売するだけでなく、お客様の手数をできるだけ減らすことを強く考えています。
——手数を減らすというのは、具体的にどういうことですか。
栗本: ケーキ屋さんに行った時にお持ち帰りの時間を聞かれて保冷剤を入れてもらいますよね。お客さんは何も持ってこないで、入れてもらったものを持ち帰るだけでいい。あの発想と同じです。
例えばプラス5°でこの商材を運んでほしいと言われた時に、ただ資材を販売するだけだとお客様のところで5°に温度を設定しないといけない。我々はそれを「調温」と呼んでいるんですが、温度を整えた状態でお客様のところにお届けするというサービスを行っています。お客様のところに届いたらもう5°の状態で商品が届くので、中に入れていただくだけでいい。その調温サービスをより広げていきたいというのが今後の展望ですね。
関東商事が届ける価値とは
——最後に、求職者の方と取引先の方それぞれにメッセージをお願いします。
栗本: 求職者の方に向けては、温度管理という専門的な知識はなかなかないと思いますが、そこは1から丁寧にレクチャーしていきます。運送部門についても、通常の配送業務の中で付随してそういった業務が発生することによって、自分の知識も上がりますし手当も上がっていく。新しいことにチャレンジしたい、自分のスキルをもっと上げていきたいという方にはやりがいのある仕事だと思いますので、ぜひ積極的に応募いただければと思います。
取引先の方については、当社は30年以上ずっと温度管理というところに強みを持ってきました。自称「定温物流のエキスパート」ということを謳っているんですが、長年蓄積してきたノウハウを持っています。マイナス196°からプラス40°までの幅広い温度帯の温度管理ができますので、知識がない方にも分かりやすくご説明して最適な温度管理をご提案できます。どんなことでも構いませんので、ぜひお問い合わせいただければと思います。
編集後記
ドライアイスは、いずれなくなるかもしれない。
カーボンニュートラルの流れの中で、原料となる副産物は減少していく。つまり、このビジネスは構造的に縮小リスクを抱えているとも言える。
それでも関東商事が見据えているのは、「ドライアイスを扱う会社」ではなく、「最適な温度状態を届ける会社」への転換だ。重要なのは何を運ぶかではなく、どんな状態で届けるか。その視点に立てば、扱う商材が変わっても、提供価値はむしろ広がっていく。
物流はこれまで、“運ぶ”ことに最適化されてきた産業だった。しかし今後は、“状態を保証する”ことが主戦場になる可能性がある。温度はその代表的な要素であり、医薬品や再生医療、精密機器といった分野では、すでにその精度が競争力を左右し始めている。
そうした変化の中で、関東商事が長年積み重ねてきた「温度をデータとして捉え、再現する」という取り組みは、一企業の工夫にとどまらない意味を持つ。物流という産業そのものが、“運ぶ”から“状態を届ける”へと変わっていく、その過程を体現しているとも言えるだろう。
30歳で事業を引き継いだ栗本さんが語った「芽が出たばかりのものをどう育てるか」という言葉は、単に一社の経営課題ではなく、この領域そのものの現在地を示しているのかもしれない。
関東商事は自らを「定温物流のエキスパート」と表現する。その言葉は決して誇張ではなく、温度という見えない要素をデータとして捉え、再現し続けてきた積み重ねの上に成り立っている。
定温物流がどのように進化していくのか。その行方は、これからの物流の在り方を占う一つのヒントになる。
ご紹介
Profile
関東商事株式会社
代表取締役
東京都江戸川区。ドライアイスの加工販売を祖業とし、定温物流資材の販売・運送事業を展開。
車の整備業界で10年のキャリアを経て2018年に入社、2022年に代表取締役に就任。
「定温物流のエキスパート」として、マイナス196°からプラス40°までの幅広い温度帯に対応する。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。