認知症を「支援」から「活躍」へ──福岡発・社会構造を更新する実装モデル / 株式会社connect pro 橘高 千里・福岡市認知症フレンドリーセンター 党 一浩
「認知症は ”支援の対象” だけではなく、”社会の中で活躍し続ける存在” として捉え直すべきだ」。福岡市認知症フレンドリーセンター(福岡市中央区舞鶴)センター長の党一浩さんは、認知症当事者と企業が共に製品・サービスを開発する取り組みを通じ、社会の側をアップデートする実践を続けています。株式会社connect pro 代表の橘高千里さんは、ものづくりを軸に、制度の狭間にある人も含めた「社会との接点」を事業として構築してきました。両者の協働から見えてきたのは、認知症を福祉や医療の枠に閉じず、地域と経済の構造として捉える新たな視点です。
今回は株式会社ウェブリカの石塚がナビゲーターとなり、
株式会社 connect pro 代表・橘高 千里さん、
福岡市認知症フレンドリーセンター センター長・党 一浩さんに、
取り組みの背景と事業構造についてお話を伺いました。
オレンジパートナーズという接点
石塚:
本日は、株式会社 connect pro 代表の橘高千里さんと、福岡市認知症フレンドリーセンター センター長の党一浩さんにお越しいただきました。まず、お二人がご一緒に出演されることになった経緯を教えていただけますか。
党さん:
福岡市では、認知症にやさしいまちをつくるために施策として「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」を掲げ、産学官民が協働する枠組みを設けています。その一つが「オレンジパートナーズ」です。認知症に関心を持つ企業や学校関係者、市民の方々が集まり、学びや交流を重ねながら、製品やサービスの開発につなげています。株式会社 connect pro さんも、その枠組みに参画しており、日頃から連携しています。
石塚:
理念共有にとどまらず、実装を前提とした枠組みなのですね。
党さん:
はい。認知症にやさしい社会を言葉だけで語るのではなく、具体的な形として社会に落とし込むことを重視しています。
ものづくり企業としての出発点
石塚:
橘高さん、まず株式会社connect proでは、どのような事業を行っているのでしょうか。
橘高さん:
株式会社connect proは、ものづくりを軸にした会社です。作家やクリエイターと共に、企画から制作までを一貫して行い、手作りの商品を届けています。認知症当事者かどうかに関わらず、ものづくりを通してコミュニケーションが生まれる場づくりにも取り組んでいます。
石塚:
もともとのキャリアも、ものづくりの現場だったのでしょうか。
橘高さん:
はい。最初はキャラクター文具メーカーで働いていました。生産部門や、キャラクターを活用した商品企画、ECサイトの運営などを担当していました。その後、福岡に戻り、教育分野に関わるようになりました。
制度の狭間にある人たちとの向き合い
石塚:
教育現場で活動される中で、課題に感じていたことはありますか。
橘高さん:
長年教える中で、技術的には非常に優れているにもかかわらず、社会に出た途端につまずいてしまう学生が増えていると感じていました。その背景には、いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる特性を持つ人たちの存在があります。
石塚:
グレーゾーンとは、どのような状態を指しているのでしょうか。
橘高さん:
障害者手帳を取得するほどではありませんが、何らかの特性を持っている状態です。制度の支援対象にはなりにくい一方で、社会との接続で困難を抱えやすい層だと感じています。
石塚:
そこから、現在の事業モデルにつながったのですね。
橘高さん:
はい。営業や対外的なやり取りを一人で担うことが難しい人もいます。そこで、営業は私が担い、受注した仕事をメンバーが制作するという形を取りました。企業ノベルティなど、販路が明確な案件を中心に回すことで、社会との関係を切らさない仕組みをつくってきました。
認知症マフとの出会い
石塚:
そこから、どのように認知症分野へと関心が広がっていったのでしょうか。
橘高さん:
グレーゾーンの人たちとの関わりを深める中で、福祉領域をより深く理解する必要性を感じました。その過程で、就労支援施設や放課後クラブと関わり、「認知症マフ」という編み物のツールに出会いました。
石塚:
認知症マフとは、どのようなものなのでしょうか。
橘高さん:
筒状の編み物で、両手を入れられる形をしています。中に手触りの良い素材が仕込まれており、安心感を生むコミュニケーションツールとして使われています。
「支援から活躍へ」という考え方
石塚さん:
党さん、フレンドリーセンターとして大切にしている考え方を教えてください。
党さん:
認知症は「なったら終わり」ではありません。生活上の不自由や困難は生じますが、年を重ねる中でこり得る状態のひとつです。重要なのは、なってもその人らしく暮らし続けられる社会をどうつくるかです。フレンドリーセンターは、そのための情報発信と実践の拠点として機能しています。
石塚:
企業と当事者が一緒に取り組む点も特徴的ですね。
党さん:
はい。認知症の人を「ケアをされる側」だけに固定せず、豊かな人生経験や生活の知恵を持つ「人生の先輩」として捉えています。当事者から直接学び、日頃の生活の工夫やアイデアを製品開発などに活かすことで、社会の側をアップデートしていく姿勢を大切にしています。
ガチャが生む社会との接点
石塚:
株式会社connect proさんは、センターではどのような役割を担っているのでしょうか。
橘高さん:
カプセルトイ、いわゆるガチャの機体をセンターに貸し出しています。中身は、認知症当事者の方が書いたメッセージ入りのおみくじです。
石塚:
センターとしては、どのような意図で活用されているのでしょうか。
党さん:
当事者が仕事として関わり、その手作りのおみくじを来館者が手に取ります。その体験を通じて、認知症への捉え方が自然に変わっていきます。小さな仕組みですが、意識変容のきっかけとして強い手ごたえを感じています。
石塚:
今後の展望について教えてください。
橘高さん:
現在はトライアル段階ですが、将来的にはレクリエーションで制作した小さな作品がガチャに入り、来館者のお土産になるような形を目指しています。
編集後記
今回の取材を通して印象に残ったのは、認知症を「ケアの問題」としてではなく、「社会構造の問題」として捉え直している点でした。党さんの語る「支援から活躍へ」という考え方は、理念にとどまらず、当事者が役割を持ち、働く姿を可視化する具体的な仕組みとして実装されています。その媒介となっているのが、株式会社connect proのカプセルトイです。娯楽的な装置に見えるガチャは、人と人との間に自然な接点を生み、当事者の言葉を社会へ届ける翻訳装置として機能しています。制度の狭間にある人たちと向き合ってきた同社の経験が、認知症分野においても応用され、地域の中で新たな価値を生み出している。その構造が確かな説得力をもって示された取材でした。
ご紹介
Profile
株式会社connect pro
代表
ものづくりを軸に、作家やクリエイターと連携し、企画から制作までを一貫して行う事業を展開しています。
キャラクター文具メーカーでの商品企画・生産管理の経験を経て、教育分野に携わり、現在は制度の狭間にある人も含め、多様な人材が社会とつながり続けられる仕組みづくりに取り組んでいます。
福岡市認知症フレンドリーセンターとの連携では、カプセルトイを活用した交流の仕組みを通じて、ものづくりが生む社会的接点の可能性を実践しています。
福岡市認知症フレンドリーセンター
センター長
認知症を医療や福祉の枠にとどめず、社会全体の課題として捉える視点から、情報発信と社会実装に取り組む。
企業や地域、認知症当事者と連携し、製品・サービス開発や就労の仕組みづくりを進めることで、「支援から活躍へ」という考え方を具体的な形で社会に広げている。
認知症になっても、その人らしく暮らし続けられる社会の実現を目指している。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。