企業誘致編 岩国市:「地方でも戦える」を証明するまちーーIT・ゲーム・水中ロボット産業が集まる岩国市
岩国市では、IT・ゲーム関連企業、水中ロボット関連産業など、多様な分野で企業誘致が進ん
でいます。瀬戸内に広がる製造業中心の産業構造の中で、若者や女性が地元で働ける環境の創
出が求められるなか、制度整備や PR 活動、試験環境の整備、教育機関連携など、取り組みは
多岐にわたります。企業の立地支援を担う岩国市役所 産業振興部 商工振興課 企業立地推進室
の浴本直哉さんに、誘致の背景・方針・現在地について伺いました。
今回は Shikisai の石塚がナビゲーターとなり、岩国市役所 産業振興部 商工振興課 企業立地推
進室の浴本直哉さんにお話を伺いました。
目次
岩国市役所で企業誘致を担当するまで
石塚:
まず、自己紹介をお願いできますか。
浴本さん:
岩国市役所 産業振興部 商工振興課 企業立地推進室に所属しています。平成 30 年に入庁し、
現在 8 年目です。大学では IT・情報分野を専攻していました。就職活動では地元で働きたいと
考えていましたが、地元には IT 企業が多くない状況があり、公務員を選びました。
入庁後は、税務担当として住民税の計算や確定申告の受付などを担当しました。その後、山口
県庁の東京事務所へ派遣され、企業誘致業務に従事しました。首都圏の企業に山口県内の地域
を紹介し、立地を検討いただく役割です。視察で来られた企業から地域の雰囲気や人柄への好
印象を伺うこともありました。
現在は岩国市役所で企業誘致を担当しています。市内の魅力や制度を整理し、企業へ伝える取
り組みを進めています。
岩国市の産業構造と IT 企業誘致
石塚:
岩国市では IT 企業の誘致に力を入れていると伺いました。もともとの産業構造について教え
てください。
浴本さん:
岩国市は瀬戸内海に面しています。周辺には大竹・岩国地区があり、日本で最初にできた石油
化学コンビナートがあります。製造業が中心の産業構造です。
石塚:
IT 企業を誘致する理由については、どのような背景があるのでしょうか。
浴本さん:
若者や女性の仕事の選択肢が多くない状況があります。また、情報系の学部・学科が増えてき
ている流れもあり、働く受け皿として IT 企業の誘致を進めています。
石塚:
誘致は進んでいますか。
浴本さん:
平成 30 年以降、山口県内で最も誘致件数が多い状況です。システム開発、ゲーム開発など、
IT 関連企業に進出いただいています。
ゲーム産業への取り組み
石塚:
ゲーム開発企業の誘致にも取り組まれていると伺いました。
浴本さん:
はい。実際に、ゲーム開発を行う企業が岩国に進出しています。その進出をきっかけに、東京
ゲームショウへ出展しました。観光や自治体としての PR に加えて、ゲーム関連企業に向けた
案内を行っています。
石塚:
反応はいかがでしたか。
浴本さん:
東京ゲームショウで接点を持った企業が、実際に岩国へ進出した例があります。SNS で取り上
げていただくこともありました。
石塚:
ゲーム産業を誘致する意義はどのように捉えていますか。
浴本さん:
周辺にはゲーム関連企業が多くありません。そのため、若者が地元で働ける選択肢になります。
注目度が高く、採用につながりやすい面もあります。
制度と進出メリット
石塚:
進出企業向けの制度について伺えますか。
浴本さん:
IT 企業を対象に、オフィス改修費への補助制度があります。岩国市では補助率 2 分の 1、上限
500 万円です。山口県でも補助制度があり、補助率 2 分の 1、上限 2,000 万円です。併用によ
り、最大 1,000 万円までは手出しゼロでオフィス改修が可能です。
石塚:
対象は IT 企業に限られますか。
浴本さん:
はい。IT 企業が対象です。
石塚:
製造業向けの仕組みもありますか。
浴本さん:
製造業には、固定資産税相当分の 3 年間支援、雇用助成(1 人あたり 50 万円、新卒は 60 万
円)があります。
クラスビズ/クラスラボと採用支援
石塚:
市内の環境面について伺えますか。
浴本さん:
岩国市には、クラスビズ( Class Biz.)とクラスラボ( Class Labo)があり、ワークスペースと
して利用できます。起業や事業展開を検討する企業が使いやすい環境です。
石塚:
採用面の支援はありますか。
浴本さん:
岩国市周辺の教育機関と連携し、企業とお繋ぎできる体制を整えています。広島県西部にも教
育機関が多く、そこにもアプローチしています。会社説明会等を通じ、採用につながった事例
があります。
水中ロボット関連産業への取り組み
石塚:
水中ロボット産業について伺えますか。
浴本さん:
市内に、防衛装備庁の艦艇装備研究所のサテライト(岩国海洋環境試験評価サテライト)があ
ります。水中無人機の試験・評価ができる環境です。また、山口県産業技術センターと協定を
結んでおり、民間企業も利用できる仕組みがあります。
水深約 11 メートル、縦 35 メートル × 横 30 メートルの大型水槽があり、水中ドローンなどの
開発に活用できます。展示会などに出展し、PR を進めています。
第 7 章 生活環境と今後の展望
石塚:
働く環境としての岩国の魅力を教えてください。
浴本さん:
行政機関、商業施設、医療機関がまとまっている一方、自然環境が身近で、アウトドアも楽し
めます。地酒の蔵元もあり、瀬戸内の食を味わえる飲食店もあります。中心市街地には繁華街
があり、米海兵隊岩国航空基地があるため、基地関係者向けの店舗もあります。
交通面では、岩国錦帯橋空港から羽田空港まで約 90 分で、1 日 5 便が運航しています。空港か
ら市街地までは車で約 6 分です。新幹線の新岩国駅もあります。
今後は、IT 企業に加えて水中ロボット分野の誘致を進めつつ、進出企業同士のつながりをつく
る取り組みも進めています。
編集後記
岩国市の企業誘致は、制度や立地の優位性だけでは語りきれません。取材を通じて印象的だっ
たのは、「地域に必要な産業は何か」「進出企業が定着するために何が必要か」という視点を
持ちながら、地道に準備を進めている姿です。
製造業が中心だった地域において、若者や女性の働く選択肢を広げるため、IT・ゲーム関連企
業を誘致する取り組みが進められてきました。地域の教育現場で情報系分野が拡大している一
方で、地元企業の受け皿が少ないという課題があり、その点に正面から応えていることが分か
ります。単に誘致件数を追うのではなく、「地域の人が働ける環境を増やす」ことを目指して
いる点に特徴があります。
東京ゲームショウへの出展による発信、教育機関との連携による採用支援、水中無人機の研究
環境の整備など、分野に応じた接点づくりが行われていました。特に、防衛装備庁の施設を活
用した水中ロボット関連の取り組みは、全国的にも稀有な環境を生かしたものといえます。
また、岩国錦帯橋空港や新幹線駅があることにより、都市部へのアクセスが確保されている点
も、働く環境としての魅力につながっています。企業同士のつながりをつくる動きも進んでお
り、「誘致」から「定着」、そして「共創」へと発展する段階を丁寧に描こうとしている姿が
印象に残りました。
大きな産業誘致を一足飛びに目指すのではなく、現実に即しながら着実に取り組みを進める姿
勢こそが、地域の可能性を広げる基盤となっていると感じます。
ご紹介
Profile
岩国市 産業振興部 商工振興課 企業立地推進室
主任主事
平成 30 年入庁。大学では IT・情報分野を専攻。地元で働きたい意向があり、市内の IT 企業が多くなかったことから公務員を志望。
入庁後は税務を担当。住民税の計算、確定申告受付などを経験。
その後、山口県庁 東京事務所へ派遣。首都圏企業へ県内の地域情報を提供し、視察受入や立地検討の機会づくりに関わる。
視察を通じ、立地環境や地域の雰囲気・人柄に触れてもらうことで関心を持ってもらう重要性を実感。
現在は岩国市で、IT・ゲーム関連企業、水中ロボット関連企業などの誘致を担当。制度案内、情報提供、関係機関との調整などを進めている。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。
■編集長インタビュー
「メディア「地域色彩」立ち上げの背景とは?株式会社ウェブリカ・石塚直樹が語る地域企業活性化のビジョン」
https://chiiki-shikisai.com/webrica-ishizukanaoki/