株式会社日東社-大西潤


株式会社日東社 専務取締役 生産本部長 大西 潤 Onishi Jun

創業or社長就任の経緯を教えてください。

慶應義塾大学卒業後、組織人事コンサルティング会社リンクアンドモチベーションへ入社しました。西日本エリアの中小・ベンチャー企業をお客様とする支社に配属されました。最初からうまくいったわけではありません。営業で未達成の月の連続、資料制作で上司とのすり合わせがズレる、で担当業務をいろいろ変えられました。お客様を見るより上司を見る、お客様の組織変革より自分の目標達成という利己の精神でした。3年経過して少しずつ結果が出始め、自分のダメな点が理解できるようになりました。担当業務がいろいろ変わったことで、営業~コンサルティングまで一気通貫で担当できるようになり結果を残せたことで4年目に全社表彰をいただき、家業へ戻る決意ができて5年目で退職しました。

経営の中で苦労したことや嬉しかったことなど、印象に残っているストーリーを教えてください。

日東社入社当時を振り返ると、常にパソコンと向き合って業務しており、周りのメンバーが話しかけづらかったと聞いています。早く結果を出したいという想いが先行して、前職で重要視した関係の質向上に向けて一切手をつけていなかったということです。なぜ日東社に入社してくれたのか、普段どういう生活をされているのか、そういった各従業員の人となりから理解しようとしていませんでした。転換期は、人を大切にする経営学会の人財塾プログラムに1年間参加したことです。経営者としての考え方「5方よし」を学び、まず従業員とその家族を大切にするところから事業成果につなげている会社を多くベンチマークできました。前職で考えていた想いに立ち返ることができました。まず、どこを目指すかという経営理念が額縁に飾ってあっただけだったので、有志を募ってプロジェクトでMission・Vision・Valueを再策定。これまで報告・連絡があるときだけ不定期に行っていた昼礼をMVV浸透にむけて定例で毎週火曜日に行うことに変えました。その場でペアになり、1週間で体現できたMVVを語り合います。さらに環境整備。昼礼と同じく、生産時間を止めて5S活動に取り組むことに抵抗がありました。製造業として、そしてマッチを扱うには安全面も重要です。月に一回パトロールも実施して、褒める点・カイゼンする点を発表します。最後に経営計画。これまで経営計画書をつくったり、経営計画発表会を開催したりしても運用されていませんでした。従業員にも数字の意識を持ってもらって全員で一致団結して、成果につなげようと考えています。

あなたが思う御社の商品・サービスの魅力を教えてください。

創業した1900年ごろにマッチ会社が全国に100社超ありました。時代と共にマッチが斜陽産業となり、現在一貫生産している会社は当社含めて2社に集約されました。ありがたいことに業界内から信頼を得て譲り受け、市場の7~8割を生産しています。「自分たちがやめたらマッチの市場もなくなってしまう」。この想いで、マッチの製造を守るために事業を多角化し、広告マッチをメインとしていたところから販促品として名入れライターやポケットティッシュなど商品群を広げたほか、マッチ工場跡地を活用してテニススクール「ノアインドアステージ」を展開するなど、常に新しいことに挑戦し、創業から100年以上存続してきました。しかし、時代の流れもあります。新型コロナウィルス禍以降、販促品の需要が激減、ウクライナ侵攻により原材料費の高騰で、売上減・経費増で赤字となってしまいました。そこで紙製品事業の売却を素早く決断し、2023年7月31日に一切リストラはせず事業譲渡しました。先代の想いや伝統も承継し、マッチ製造の火を灯し続けながら新しいことに挑戦していかなければなりません。私は、超トップダウン主義ではなく、サーバントリーダーシップで従業員を巻き込み、新商品・新規事業開発もプロジェクトを組んで2024年度中にカタチにしていきます。

地域との関わりで意識していることを教えてください。

実はマッチは姫路市の地場産業です。2020年に本社地域である姫路市東山の自治会館を新設した際、3代目故・壬(あきら)会長(当時)夫婦が寄付し、館内に「マッチの里ミュージアム」を立ち上げ、マッチの歴史や明治・大正時代のマッチ柄、そして携わる日東社の歴史を展示しています。東山地域は住宅街で当社以外の会社はほとんど存在しません。住まれている方々が誇れる会社に成長していきます。

今後のビジョンを教えてください。

『変わることで「火」をつなぎ続ける』

マッチ(Match)には、「練り合わせる」「仲間になる」という意味が含まれています。経営者として従業員を信頼し、練り合わせる。従業員はお互いに、そしてお客様や取引先様、地域社会との関係性を向上する。「練り合わせる」ことで人の心や組織に「火」を灯し続けたいと考えています。個を大切にして、多様な想いでみんなが協力し合い、日東社だけでなく姫路市東山という地域、住まれている方々、そしてマッチ事業を発展させていきます。そのために自分たちの大事にしているMission・Vision、誇りやこだわりを軸に、変わらずに守るのではなく、変わることで守っていきます。

Profile

株式会社日東社 専務取締役 生産本部長

大西 潤 Onishi Jun