世界で愛される如雨露を作る「根岸産業」!伝統工芸の枠を超えて構想する未来の形


根岸産業有限会社 代表 根岸 洋一 NEGISHI YOICHI

日本にただ1社残る盆栽如雨露メーカーである「根岸商店」。機能性にもデザイン性にもこだわって作られた金属製の如雨露は日本だけでなく世界に知られ、多くのBONSAI愛好家にとって欠かせないものとなっています。ものづくりのまちである墨田から世界各国へと如雨露を届ける根岸社長にお話を伺います。

常に生活とともにあった如雨露作り

ーまず根岸さんの生い立ちからお伺いできますでしょうか。如雨露とどう関わってきたのでしょうか?

根岸社長 うちは祖父と父が家で仕事をしていて、母が何か作業する時にも面倒を見れるよう仕事場に座らされていたみたいなんですよ。3歳ぐらいの時から父にあれこれやってみろと言われて、遊びのような感じだったんですけど、実は如雨露作りだったっていう…。小学生の時には、お小遣いやゲームが欲しいとお手伝いするという感じ。中学ぐらいになると普通に今の形の如雨露を作っていて、部活終わった後や土日に手伝いをやっていました。高校、大学もアルバイトというとうち、みたいな感じです。

卒業後はシステムエンジニアになって、銀行系のATMとか得意だったんです。銀行が統合で忙しい時もあったんですけど、それ以外は定時退社、土日休みなので、退社後や土日は如雨露作り。やりたいとかやりたくないとかじゃなくて、うちがそういう感じで忙しいので。約14年やっていましたが、今は如雨露作り一本です。

BONSAIの広がりとともに世界で愛される如雨露に成長

根岸社長 如雨露がなんで世界に広がったかというと、例えば盆栽家の先生のところに海外からお弟子さんが来て、師匠が如雨露を使っているから、弟子も如雨露で水やりをする。修行が終わって帰国する時に如雨露を持って帰って、今度はその方が師匠になる。弟子が来て、師匠が如雨露を使っているからということで買ってくれる。更にその弟子が師匠になった時に…っていう広がり方なんです。

盆栽の広がりは『ベストキット』っていう映画がきっかけです。いじめられっ子が宮城さんっていう日本人に空手を教わって、いじめっ子をやっつけるみたいな話。その映画が大ヒットして、宮城師匠が盆栽をやっているっていうので、ヨーロッパで爆発的に広がったんですよ。如雨露も映画のブームに乗っかって更に、海外から全世界に広まっていった感じなんです。

今はパリのメゾン・エ・オブジェとか、ドイツ、ミラノとか海外の展示会がたくさんあるので、会場で如雨露を作ったりします。そうすると、見ていたデザイナーさんとのつながりからプロジェクトが始まったり。4年に1回開かれている世界盆栽大会でも如雨露作りを見せて、広めたり。最近はYouTubeも利用していて、YouTubeを見たWHO(世界保健機構)のチームメンバーのドクターが買いにきたりしました。

世界25カ国のショップで扱っていただいていて、国によって気候や水質が違うので、環境に合わせた如雨露を作っています。盆栽のほかにも万年青や洋ラン、バラ、菊、全部スペシャリストが世界にいるので、どういう如雨露がほしいかっていうのを聞きまして。如雨露って結構、広がりがありますね。

ーお話を聞いていて、想像以上に如雨露が世界で広まっていることにびっくりしました。

植物の育成に大きく関わる金属製の如雨露

ー根岸さんの如雨露が世界各国で必要とされている理由はなんでしょうか。

根岸社長 如雨露って水が漏れるものなので、作るのは結構面倒くさいんですよ。日本に今の形の如雨露が入ってきたのは明治の終わりで、イギリスのホーズ社っていうメーカーが作ったもの。板が厚いし、かなり重いので、盆栽家の方は使いづらかったようです。

祖父が創業した頃の製品の1つがホーズ社の如雨露を真似て作ったもので、父親の代になって盆栽家の方に相談して、今の基本形を作っていった。当時はライバルがいっぱいいたんですけど、結構面倒くさいって感じでやめちゃったんです、日本だけじゃなくて世界的に。開発したホーズ社でも今は9割がプラスチックで、金属は1割。世界的に見ると、ほぼ作っていないんです。

でも、如雨露が必要な植物はあるわけじゃないですか。樹齢1000年っていわれている盆栽や、一番古いっていわれている宮内庁の盆栽も、生きているものなので、水やりを間違えると枯れます。そういう盆栽にも如雨露を使ってくれています。

雨水は雲から落ちてくる時に空気を取り込むので、微生物が活性化しやすい。活性化しすぎちゃうと、その微生物を餌にする虫が寄ってきちゃって、湧いたりするんですよ。価値のある盆栽も、虫に食べられたら終わりなので。それをどれぐらい抑えるかっていうのが如雨露の役目です。逆に水道水みたいにろ過されすぎちゃうと栄養素がないので、肥料で調整する必要がある。それをコントロールする1つが如雨露なんですよね。

如雨露は金属板から作りますが、メーカーの研究チームで、菊であればステンレス、バラであれば真鍮と、それぞれの植物と相性のいい金属がちゃんと科学的な数値データでわかるので。メーカーの方達も新しい金属ができると、水と合わせてどういう反応が起こるか、試しにきたりします。

根岸氏が思い描く伝統工芸の未来の形

ー根岸さんがお仕事をされる上で意識していること、心がけていることをお伺いできますか。

根岸社長 そうですね。お客様が喜ぶのはどういう如雨露かなっていうのを考えて作っています。金属板から切って作っているので、長さも容量もデザインも対応できるので。

失敗しても人に話す種になると思って、毎年いろいろチャレンジしています。国立美術館で伝統工芸のコンテストがあり、去年は、金属の3Dプリンターで出力した如雨露を出そうとしたんです。そしたら「これって伝統工芸でもなんでもないですよね」と、3Dプリンターを使ったことで失格に。

ただ、パリの展示会とかでは、みんな3Dプリンターを使って作っているわけですよ。手で作るよりも安いですし、効率もいいので。今、3Dプリンターも技術が上がっていて、金属の密度を最初から設定できるんですよ。例えば刀鍛冶の方が叩くと金属の密度が高くなって、刀の切れ味が良くなる。3Dプリンターで出力した金属を研げば、叩いたものと同じ刀ができちゃうんですよ。

いずれは伝統工芸の世界に新しい技術が入ってくるはずですけど、どのタイミングで入るのかなとか、このまま日本は取り残されていくのかなとか。日本の伝統工芸の世界にも最新の技術を取り込まないといけない時代だと思うんですけど、まったく取り込んじゃいけないっていう話なので、疑問を投げかけたみたいな形です。

ー根岸さんご自身は新しいものをどんどん取り入れて、というお考えでしょうか。

根岸社長 はい、効率よく。それだけじゃなく、3Dプリンターの出力データを、例えば音楽データと同じような感じで販売して、ダウンロードして金属プリンターで出力すれば如雨露がそのまま使える、といったことも考えています。最新技術を取り込んでも、如雨露の基本形は変わらないので。

ー根岸さんの思い描く未来、ビジョンはとても興味深いです。今後の新しいチャレンジにも期待しています。本日はありがとうございました。

編集後記

金属製如雨露が世界で必要とされる理由や、参加するプロジェクトについてイキイキと語ってくれた根岸社長。人とのつながりをどんどん広げて、新しいことにも恐れずチャレンジをしていく姿勢が印象的でした。根岸産業がこだわりを持って作成する金属製如雨露は公式サイトでも取り扱いがあります。1日に作れる如雨露の数は限られるとのことですが、気になる方はぜひ一度ご覧ください。

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根岸 洋一 NEGISHI YOICHI