奈良県の郷土料理として愛される柿の葉ずし。160年以上の歴史がある平宗では伝統的な鯖や鮭に加え、ローストビーフなど新しいネタも意欲的に挑戦する。寿司文化の拡大や海外への販路拡大を目指す平井社長に柿の葉ずしの魅力や今後の展望についてお伺いしました。
—ご創業の経緯を教えていただけますか。
平井社長 創業は江戸時代末期の1861年、奈良県吉野上市村で寿司や川魚、乾き物の製造販売を始めたのがはじめです。当時はまだ「柿の葉ずし」を作っていたわけではありませんでした。弊社はもともと「あゆ寿司」を作っていたんです。当時の寿司は、日持ちをさせるための「熟鮓(なれずし)」と呼ばれるものでした。米の乳酸発酵を利用して熟成させるのが特徴です。弊社はそのあゆ寿司を、京都御所に年2回献上していました。献上できるのは当時7家しかなく、私たちはその内の1家でした。そこから今の「柿の葉ずし」が郷土料理として奈良県の吉野地方で広まり始め、柿の葉ずしを最初に商品化しました。そのような背景もあって、今は総家と名乗らせてもらっています。
―160年以上の歴史の重みを感じますね。
平井社長 はい。元々は寿司ネタも鯖しかなかったんですが、それじゃ面白くないだろうということで鮭を商品化したのも弊社が最初です。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に柿の葉ずしが登場するんですが、そのネタが鮭なんです。その谷崎潤一郎が書籍を執筆していた旅館があるのですが、その旅館というの「櫻花壇」という旅館なのですが、私の祖母の実家なんです。そういったところからも、自信を持って弊社がルーツであると発信させていただいています。
—平宗で作っている柿の葉ずしのおいしさの秘密を教えてください。
平井社長 シャリには非常にこだわっています。米は100%奈良県産ヒノヒカリを使っていて粒がそろっていて光沢があります。ネタの鯖はその時の脂の乗った産地のものを使用しています。全量を熊野産にしたいのですが、漁獲量が少なくてとても貴重なんですよね。なので、熊野産が足りない時は国産の鯖を使うようにしています。このように伝統技法を受け継ぎながら、地域の食材で寿司を作っているところがおいしさの秘訣だと考えています。
ローストビーフ寿司が大好評。地元産にこだわり新たなネタを開発
—最近ではめずらしいネタも使っているとお聞きました。
平井社長 ローストビーフのことですね。確かに珍しいと思います。開発したきっかけはお客さまからの要望でした。お寿司を卸している企業から、何か奈良を全面に出した商品を開発できないかと依頼がありました。私たちは奈良県で長い間商売をしていますし、地域貢献への思いも強いです。どんな商品なら奈良県産というブランドになるのだろうと考えていたところ、県が大和牛をPRしていたんですね。これだ!と思いました。肉ブームの前の時期で、これから注目が集まるぞという確信もありました。
—160年の伝統に対してすごく新しい挑戦だと思うのですが、戸惑いはありませんでしたか。
平井社長:寿司のネタは鯖や鮭、鯛など季節ものを入れると20種類を超えてきます。もっと多くの人に柿の葉ずしを知ってもらうためには、ネタの種類を増やす必要があると感じています。これまでの伝統を受け継ぎつつ、新しいジャンルにも挑戦していくことが、寿司の文化の拡大にもつながると信じています。
柿の葉ずしを世界に発信!
—事業を続けていく上で大切にしていることは何ですか。
平井社長 事業は続けていくことが大切だと思っています。寿司という伝統産業を守り続けていき、その中で雇用を守り結果として収益がついてくるという考えで日々経営に取り組んでいます。儲かるかどうかではなく地域に根ざし、雇用を守り文化を守る。こうゆうことをしっかり世の中に残していきたいですね。
—今後の展望をお聞かせください。
平井社長 今最も注力しているのが冷凍の柿の葉ずしを海外で販売することです。もう10年近く取り組んでいるプロジェクトです。新型コロナが明け多くの外国人客が来日するようになりましたが、奈良県内の店舗では外国人客に柿の葉ずしが好評です。もともと海外の富裕層には日本食は人気がありましたが、今は日本食ブームで、日本食に対する関心が高まっています。冷凍設備も最新のものを導入したので、何としても柿の葉ずしを世界に広めていきたいです。
編集後記
お話を聞けば聞くほどそこには地元奈良産の食材をPRしたい、寿司文化の裾野を広げたいという平井社長の熱い思いが伝わってきました。一口食べるとネタとシャリの旨味が口の中に広がる、そんな伝統の柿の葉ずしをこの機会に食べてみてはいかがでしょうか。平宗の柿の柿の葉ずしは、オンライショップから全国どこでも購入することができます。ぜひオンラインショップにアクセスしてみてください。