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「とんかつの山田屋」に宿る職人魂|社員が家族に誇れる会社を目指して/ショウエイフーズ株式会社・山田至亮

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大阪・富田林の地で38年。業務用の食肉加工から始まったショウエイフーズ株式会社は、今や“冷凍なのに手作りを超える”と評判のとんかつブランド「とんかつの山田屋」を展開しています。代表取締役の山田至亮さんは、父の代から続く食品製造業を継ぎ、BtoBからBtoCへと舵を切りました。目指すのは、全国の食卓に専門店の味を届けること。そして、自社の社員が誇りを持てる会社づくり。地域に根ざした食品メーカーが挑む“冷凍とんかつ革命”の裏側を伺いました。

業務用から小売へ-富田林発・ショウエイフーズの挑戦

石塚:本日はよろしくお願いします。まずは、ショウエイフーズさんについて簡単にご紹介いただけますか。

山田さん:よろしくお願いします。大阪・南河内の富田林という場所で、食肉加工製品を製造しています。ショウエイフーズ株式会社の代表取締役、山田至亮です。

石塚:よろしくお願いいたします。食品製造ということですが、主にはどんなものを作っていらっしゃるんですか?

山田さん:メインは食肉製品ですね。いわゆる揚げ物です。それも、今は食肉に限定して製造しています。魚とか野菜とかを一緒に扱うのは、工場の衛生基準的に難しいんです。だから、食肉を使ったとんかつやチキンカツ、メンチカツなどを製造している食品メーカーです。

石塚:なるほど。業務用ということは、飲食店やスーパー向けに出荷されているんですね。

山田さん:はい。最初はBtoBが中心でした。大手の飲食チェーンさんやスーパーさんなど、業務用の取引がメインで、オーダーメイド的に味の調整をして出しています。

石塚:お客様ごとに味の調整をされているんですね。

山田さん:そうです。お客さんごとに味の好みや求める品質が違うので、それに合わせて対応しています。そうした経験が今の自社ブランドにも活きています。

石塚:最近はBtoCにも力を入れていると伺いました。

山田さん:はい。ここ数年でBtoC、自社ブランドの商品開発と販売にも取り組み始めました。「とんかつの山田屋」というブランドで、商標も取って展開しています。味のこだわりや食感、パン粉の割合など、長年の業務用経験をもとにした製品を一般のお客様にも届けていきたいと思っています。

石塚:店舗展開もされているそうですね。

山田さん:そうですね。最初はお弁当スタイルから始めました。業務用の味をそのまま楽しんでもらえるように工夫して、冷凍でも品質が落ちないようにしています。

石塚:なるほど。業務用の高品質なとんかつを、家庭でも楽しめるようにしていらっしゃると。

山田さん:はい。専門店と変わらない味を目指しています。

倒産から立ち上がった家族企業の原点

石塚:会社の始まりについてもお聞きしていいですか。

山田さん:今期で38期になります。もともとは父親が立ち上げた会社なんですけど、私の祖父の時代に、もともとハムの製造メーカーをやってたんです。結構大きい会社だったらしいんですけど、その会社が倒産してしまって。
それで、父と叔父が「もう一度、自分たちの力でやってみよう」と立ち上げたのがショウエイフーズの始まりです。
最初は父と叔父の二人でやってたんですが、だんだん意見の違いとかも出てきて、最終的には父が独立して、ひとりでやるようになりました。

石塚:完全に1からだったんですね。

山田さん:そうです。借金まではしてなかったけど、機械も作業台も全部ゼロから。叔父の会社から譲り受けることもなく、父が自分で揃えて。
最初の20年くらいはほんとに、父ひとりで、なんでもかんでもやってたんです。朝から晩まで。営業も製造も全部ですね。

石塚:想像するだけで大変そうですね。

山田さん:そうですね。でも、父には“自分の力でやる”っていう気持ちが強かったんやと思います。
うちの祖父の会社がなくなった時に、やっぱり「このままでは終われへん」って思ったんでしょうね。僕が高校生くらいの時に会社を立ち上げたので、家の手伝いもしながら、父の背中を見てました。
その頃から「父の代で終わらせたくないな」って、どこかで思ってたのかもしれません。

石塚:山田さんご自身は、すぐに入社されたんですか。

山田さん:いえ、私はもともと飲食の道に行ってました。
30歳くらいまで、板前をやってたんです。包丁握って料理をしてました。
でもやっぱり、父が一人で頑張ってる姿を見て、“このまま好きなことばっかりやってたらあかんな”と思って戻りました。

石塚:飲食の現場での経験が、今の味づくりにもつながっている感じですね。

山田さん:そうですね。包丁の扱いもそうやし、火の通し方、肉の扱い、そういうのは全部、今の製造にも活きてます。
どっちかというと細かい性格なんで(笑)。
ちょっとでも違うなと思ったらやり直すタイプです。

飲食チェーンが認めた“冷凍とんかつ”の実力

石塚:BtoB事業の現在の販売先はどういったところになるんでしょうか。

山田さん:父が営業をずっとやってきたので、顔が広いんですよ。
関西の大手スーパーさんや、皆さんが知ってるような飲食チェーンさん。そういうところにも納めてます。個人の会社としては小さいですけど、ありがたいことに大手さんとずっとお付き合いさせてもらってます。

石塚:最初からそういう大手との取引があったわけではないですよね。

山田さん:もちろん、最初は全然相手にされなかったです。
「冷凍? いやいや、うちは手作りやし」って。
でも、こっちとしては「うちのも一回食べてください」ってお願いして、試食してもらったんですよ。
そしたら「……え、これ冷凍なん?」ってびっくりされた。そこからですね。

石塚:やはり味で認められたわけですね。

山田さん:そうですね。最初は“冷凍”ってだけで壁があったけど、一度食べてもらったら「これでええやん」って言ってもらえる。
そこからつながりができて、飲食チェーンや給食事業、弁当会社などにも広がっていきました。

石塚:冷凍食品って、“簡易的”“大量生産”みたいなイメージを持たれがちですよね。

山田さん:そうなんです。冷凍=手抜き、っていう印象がまだまだあります。でも実際は逆なんです。
BtoB事業ですと、毎日何百店舗分も同じ味・同じ食感で出さないといけないです。手作りだと日によって仕上がりが変わることもあるけど、うちはどの時間、どのスタッフが作っても同じ品質で仕上がるようにしてます。

石塚:なるほど。安定性こそ品質の証ですね。

山田さん:そうですね。だから「冷凍だからこそできるクオリティ」があると思ってます。
たとえば、忙しい時間帯やアルバイトさんが多いお店でも、ちゃんとしたとんかつが提供できる。
それが大手チェーンさんにとって一番大事な“均一性”なんです。

石塚:確かに、チェーン展開するお店ほど、味のブレが課題ですもんね。

山田さん:そうなんですよ。僕らのとこに最初に話をくれたお店も、もともとは全部お店でパン粉つけて、手作りで揚げてたんです。
でも、店舗ごとに味がバラバラやった。忙しい時間帯やスタッフによって揚げ方も違う。
だから「うちの商品を使えば、いつでも同じ味が出せます」って話をして、実際に食べてもらったら「全然わからへん!」って。
それで採用してもらったんです。

石塚:冷凍というより、“職人の技をパッケージ化した”ような印象ですね。

山田さん:そうですね。実際、手作りよりも手間がかかってます(笑)。
原料の肉もチルドの状態で仕入れて、そこから熟成させて、筋切りやカットも全部人の手でやってるんです。
冷凍って聞くと“機械でポンポン作ってる”イメージあるけど、うちは人の手で仕上げる部分が多いんです。

石塚:そのあたりは、飲食出身の山田さんらしいこだわりですね。

山田さん:そうかもしれませんね。僕、板前の頃に「食べる人の顔を想像して作れ」ってずっと言われてきたんですよ。だから今でも“誰が食べるか”を意識して作ってます。
業務用でも、最終的には“人が食べるもの”ですから。

石塚:素晴らしいですね。
冷凍とんかつが“業務用の技術”から“食卓の主役”に変わる瞬間が、まさにそこにありますね。

社員に「自分たちの仕事の価値」を感じてもらいたい – toC事業への挑戦

石塚:新たに飲食店を出すというのは、かなりリスクもあると思いますが、あえて挑戦された理由はなんだったんでしょうか。

山田さん:いや、リスクでしたね。すごいリスクでした。僕、板前やってたんで、その辺はわかるんです。勢いでは出せませんでした。
戻ってきたときもやっぱり飲食が好きで、自分でお店をやるなら会社の事業としてやった方がいいと思って。だから、ショウエイフーズの仕事をしながら、どこかで飲食店をやりたいという気持ちはずっと持ってたんです。
でも、20年経ってもなかなかできなかった。名前を決めて、場所もいろいろ探してましたけど、自分のやりたいだけでは踏み切れなかったんです。

石塚:実際に動き出したきっかけは何だったんですか?

山田さん:うちは業務用なんで、消費者の方に名前が出ないんです。
だからクレームだけは来るけど、「美味しかったよ」とか「喜んでくれたよ」っていう声はなかなか届かないんですね。
営業してる僕らはまだお客さんと話すこともあるけど、現場の社員やパートさんは毎日工場の中で作業をしていて、自分たちが作ってるものがどう受け止められてるか分からないままなんです。

石塚:それは確かに、やりがいを感じにくい環境かもしれませんね。

山田さん:そうなんです。だから「自分たちが作ってる商品は人を幸せにしてるんやで」って実感してもらいたかったんです。
それで、直接お客さんの声が届くBtoC、小売に挑戦しようと思いました。

飲食店を出すのは難しいけど、お弁当ならもう少しハードルが低いんちゃうかと。
それで「とんかつ専門のお弁当屋さん」という形で始めました。

石塚:なるほど。それで創業の地・富田林で始められたんですね。

山田さん:はい。会社がある場所は交通量が多い道路沿いで、車で寄りやすい場所なんです。
正直、誰もここでお店が成功するとは思ってなかったと思います(笑)。
でも、思った以上に評判が良くて、地域の方に受け入れられました。

「とんかつの山田屋」の誕生秘話とこだわり

石塚:お店の名前が「とんかつの山田屋」ですね。由来を教えてください。

山田さん:はい。「とんかつの山田屋」は商標も取ってます。
会社があるのが大阪の富田林なので、「富田林のとん」と「豚のとん」をかけて、“富(とん)”という字を使いました。
「富」は縁起のいい字でもあるんで、“富を呼ぶ”って意味も込めてます。

石塚:いい名前ですね。とはいえ、飲食店を出すのは簡単じゃないですよね。

山田さん:そうですね。でも、うちは業務用で長年やってきて、味には自信があったんです。
ロースカツも評判が良くて、ヒレカツも同じボリュームで柔らかく食べやすい形にしたかったんですね。
大阪では「ヒレカツ」を「ヘレカツ」って言うんですけど、棒状に切るのが一般的なんです。
でも僕は、ロースと同じくらいの大きさで、食べ応えのあるヘレカツを作りたくて。
包丁で開いて、筋を切って、繊維を潰さずに観音開きのようにして仕上げています。
叩いて伸ばすんじゃなくて、丁寧に包丁で開く。それがうちのヒレカツの特徴です。

石塚:確かに、一般的なヒレカツより厚みがあって食べ応えがありますね。

山田さん:そうなんです。ロースと並べても見劣りしない、しっかりしたヒレカツを出したかった。
ロースとヒレ、両方に自信があるんで、それを「富ヘレかつ」としてブランド化しました。

石塚:お客さんの反応はいかがですか?

山田さん:すごくいいです。従業員も喜んでますね。会社の隣でやってるんで、仕事終わりに買って帰る人も多いです。お客さんが並んでる様子を見て「うち、頑張ってるな」って実感できる。
やっぱりモチベーションが上がりますね。

石塚:まさに社内の誇りを地域の誇りにする取り組みですね。

山田さん:そうですね。通販も始めたのも同じ理由です。
地元の人や社員に知ってもらうだけじゃなく、全国の人に「ここのカツ美味しいやん」って言ってもらいたい。冷凍だからこそ、どこでも同じ味を楽しめる。自信を持って出しています。

定番商品「富ヘレかつ」
ダントツの満足感「富ロースかつ」

目指すのは“家族に誇れる会社”-とんかつ専門店が行き着く先

石塚:今後の展望について教えてください。

山田さん:やっぱり「認知度を上げたい」というのが一番です。
ショウエイフーズという社名はまだ知られていないけど、「とんかつの山田屋」を通して名前を知ってもらえるようにしたい。
全国の人に「ここのカツ、美味しいな」って思ってもらえるのが目標です。

それともう一つは、社員が自分の家族に誇れる会社にしたい。
「お父さん、こういう会社で働いてるんやで」「こんな商品作ってるんやで」って、胸を張って言える会社にしたいんです。
そのためにも、美味しいものを届け続けて、みんなが幸せを感じられる仕事をしていきたいと思っています。

石塚:本当に素敵なお話です。最後に、ご覧いただいている方へメッセージをお願いします。

山田さん:はい。最初は社員に「自分たちの仕事がいいものなんや」って実感してもらうために始めたんですが、今は全国の皆さんに食べてもらいたいと思っています。
「とんかつの山田屋」の冷凍カツは、専門店の味をそのまま家で楽しめます。
「通販でとんかつ?」って思うかもしれませんけど、1回食べてもらえれば違いが分かると思います。
ぜひ騙されたと思って一度食べてみてください。LINEのお友達登録をしてもらえればお得に買えますし、そこからぜひ味わってみてほしいです。

石塚:ありがとうございます。今回はショウエイフーズ株式会社代表取締役、山田至亮さんにお話を伺いました。本当にありがとうございました。

山田さん:ありがとうございました。

編集後記

大阪・富田林の地に根ざすショウエイフーズ株式会社は、全国の飲食店に向けて食肉加工品を提供してきた老舗メーカーです。
代表取締役の山田至亮さんの語りからは、製造業としての堅実さの中に、ものづくりへの確かな情熱が感じられました。
業務用食品メーカーは、消費者の前に社名が出にくい業態です。
「クレームは届いても、感謝の言葉はなかなか届かない。」
そんな構造の中で働く従業員が「自分たちの仕事の価値」を感じづらいという課題に、山田さんは真正面から向き合っていました。
「社員に誇りを取り戻してもらいたい」という思いが、BtoCへの挑戦や「とんかつの山田屋」というブランドの立ち上げにつながっています。
そして、冷凍とんかつという一見シンプルな商品には、熟成肉の選定や筋切り、衣の比率までに及ぶ細やかな職人技が込められています。
“冷凍は手作りに劣る”という固定観念に対して、「同じ品質を保てるのが強み」と語る姿には、現場を知る経営者ならではの確信がありました。
そして何より印象に残ったのは、「社員が家族に誇れる会社にしたい」という一言です。
この言葉には、経営者としての覚悟と同時に、地域に根ざした企業としての責任感がにじんでいました。
ショウエイフーズの歩みは、食品メーカーがこれから進むべき方向を静かに示しているように感じます。
効率や規模の追求だけではなく、職人の技と人間の手の温もりをどう共存させていくか。
その問いに誠実に向き合い続ける姿勢こそが、「とんかつの山田屋」というブランドの核にあるのだと思います。

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ご紹介

Profile

山田 至亮

ショウエイフーズ株式会社
代表取締役

山田 至亮

やまだ よしあき

Instagram

大阪・南河内で業務用食肉加工品の製造を行う同社にて、チルド肉の熟成を活かした加工技術や、筋切り・厚み調整・衣の比率設計など、約40年にわたり培われた独自の製造ノウハウを基盤に商品開発を牽引。
大手スーパーや飲食チェーンへのOEM供給を通じて、均一性と再現性の高い商品づくりを進めてきた。
また、製造現場で働く社員が自社商品の価値を実感できる場をつくりたいとの思いから、「とんかつの山田屋」を立ち上げ、専門店品質の冷凍カツを全国へ届ける通販事業も展開。製造と小売の両面から、地域に根ざした食のブランドづくりに取り組んでいる。

HPはこちら とんかつの山田屋 通販サイトはこちら
石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

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