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薬を渡すだけじゃない!地域の“駆け込み寺”薬局が挑む新しい役割 / 株式会社ながせ・石川裕基

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岐阜県内で調剤薬局を6店舗展開する 株式会社ながせ(ながせ薬局)代表取締役の 石川裕基 さんは、「あなたの今をあなたと共に」という理念を掲げ、地域医療に深く根ざした薬局経営を続けています。薬剤師としての原点は「理科の中で化学が得意だったから」という意外な動機でしたが、その歩みは決して平坦ではありません。国家資格取得までの紆余曲折、独立直後の病気入院、そして医療費抑制政策の荒波――。それでも石川さんは「他と同じことでは満足できない」と語り、新しい挑戦を積み重ねてきました。薬局の役割が変化する今、地域の声に耳を傾けながら未来を切り拓く姿勢は、多くの方にとってヒントとなる内容です。

薬剤師を志した意外なきっかけ

石塚:まずは、薬剤師を目指されたきっかけからお聞かせいただけますか?

石川さん:実はあまり格好の良い理由ではないんです。私は勉強が特別できるタイプではなかったのですが、理系科目の中で唯一得意だったのが化学でした。理系の大学というとどうしても男子学生が多いイメージがあって、「大学生活を楽しく過ごせるだろうか」と考えたときに、薬学部ならまだバランスが良いのでは、と。それで薬学部に進みました。

石塚:なるほど。最初の一歩は「理科が得意」「大学生活も考慮して」という素直な動機だったんですね。

石川さん:そうなんです。ただ実際は国家資格取得までに順風満帆ではなくて。大学に入るのに1年余計にかかり、卒業にも1年、国家試験合格にも1年と、いわば何度も“足踏み”しました。副代表にも「必ず一歩遅れて進むタイプだよね」とよく言われます(笑)。

独立と「ながせ薬局」創業の裏側

石塚:最初はどこかに就職されたんですか?

石川さん:はい。卒業後は調剤薬局に就職しました。そこで管理薬剤師を任され、約10年間経験を積みました。その後、独立を決意して「ながせ薬局」を創業しました。

石塚:安定を捨てての独立、大きな決断ですよね。

石川さん:そうですね。私は「他と同じことをして満足する」タイプではなく、どうせなら何か爪痕を残したいと思っていました。最初の店舗「ながせ薬局」は岐阜県揖斐郡揖斐川町谷汲長瀬に開局しましたが、1カ月後に私が入院してしまったんです。店長兼管理薬剤師であり、代表でもあったので「どうしよう」と途方に暮れました。でも副代表が「自分が入るから大丈夫」と言ってくれて、何とか危機を乗り越えられました。あの経験が「仲間と共に会社をつくる」という今の体制の原点です。

地域に根ざした店舗展開とその想い

石塚:なぜ岐阜県内にこだわって展開しているのでしょうか?

石川さん:創業地の地名「長瀬」から社名をいただきました。土地に根ざす決意を込めたんです。最初は「一国一城の主」で満足でしたが、従業員を守るには規模拡大が必要だと気づきました。もし自分に何かあったら、仲間や患者さんを守れない。だから店舗を増やし、会社全体で地域医療を支える体制をつくる必要があると思いました。

医療費抑制と薬局業界が抱える課題

石塚:業界の課題についてはどう感じていらっしゃいますか?

石川さん:一番大きいのは国の医療費が限界に来ていることです。薬価は下げられ続け、結果として必要な薬が製造されなくなる事態も起きています。コロナ禍の咳止め不足もその一例です。

薬局の収益は薬の販売益ではなく「調剤報酬」が基本です。処方せんを受け付け、正しく調剤し、患者さんの健康状態をチェックすることに対して国から点数が与えられる仕組みです。つまり「薬を渡すだけ」でなく「医療のセーフティチェック」としての役割が求められているのです。

オンライン薬局と薬剤師の新しい役割

石塚:最近はオンライン薬局も話題ですね。

石川さん:そうですね。便利さはありますが、副作用リスクまできちんと把握できるのか疑問です。薬局が存在する理由は「不要な薬を防ぐチェック機能」ですし、さらに今は「患者さんの生活や健康全般を相談できる場」としての役割が求められています。

AIや自動化が進んでも、最後に患者さんの言葉を聞き、不安に寄り添えるのは人間の薬剤師だけです。だからこそ、私は社員に「価値ある薬剤師」であってほしいと常に伝えています。

老人ホーム紹介事業という新たな挑戦

石塚:新しい事業にも挑戦されていると伺いました。

石川さん:はい。2024年から老人ホーム紹介サービスを始めました。岐阜県の過疎地域では、高齢者が医療インフラから取り残されることが多いんです。私たちは薬局として地域に密着しているからこそ、施設の状況や患者さんの生活状況を把握できます。

「入りたい人」と「入ってほしい施設」をつなげる――これは単なる収益事業ではなく、地域から必要とされる存在であり続けたいという思いから始めました。

今後への展望

石塚:最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか?

石川さん:薬局は「薬を渡す場所」から、「地域の健康を支えるインフラ」へと役割が変わってきています。国の制度や医療費の仕組みも変化していますが、その流れをしっかり読み取りながら、会社として柔軟に対応していきたいですね。

ただ単に店舗数を増やすのではなく、社員一人ひとりが「価値ある薬剤師」として評価されるよう育成していくこと。そして、薬局の枠にとらわれない新しい事業にも挑戦し、地域の方々に「ながせがあって良かった」と思っていただける存在を目指します。

石塚:まさに地域に根ざしながら進化する薬局ですね。

石川さん:はい。規模の大小ではなく「地域で必要とされるかどうか」。その軸を大切に、これからも事業を展開していきたいと思っています。

編集後記

石川さんのお話で印象的だったのは、「理念を現場で具体化する力」でした。大学時代から足踏みを繰り返しながらも資格を取得し、独立後に入院という逆境を経験しても仲間と共に事業を続けてきた。そのストーリーと想いが「地域に必要とされる薬局」を形づくっています。

薬局は「薬を渡す場所」という誤解を持たれがちですが、実際には医療費抑制の役割を担う社会的インフラです。さらに今は、患者が医師に相談しづらいことまで受け止める“生活の相談窓口”になりつつあります。

また、老人ホーム紹介事業は「薬局だからこそ地域で見えるニーズ」に基づいた革新的な取り組みです。収益性の追求ではなく「地域に必要とされる存在でありたい」という思いを強く感じました。

石川さんの「目の届く人に責任を持つ」という言葉は、地方で奮闘する全ての事業者にとってヒントになるのではないでしょうか。

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Profile

石川 裕基

株式会社ながせ
代表取締役

石川 裕基

いしかわ ゆうき

Youtube

株式会社ながせは、社名にもなっている岐阜県谷汲長瀬の地に、薬局を開局すると同時に産声を上げました。
都会とは決して言えないこの土地で、地域に根付いた薬局として患者様に信頼され、そして必要とされる医療を提供したいという理想を掲げてスタートした会社です。
しかしながら、実際に運営をしていくにつれて、逆に地域の皆様に支えられることで成長してきたのだと、感じております。
患者様、ドクター、スタッフ、地域医療に携わる全ての人達に支えられ、今では岐阜県内外に数店舗を運営する会社へと成長をさせていただきました。
「あなたの今を、あなたと共に」の理念の元、我々が関わる全ての人達に少しずつでも幸せを与えたい。創業の地である「ながせ」の名前を大切にして、今後も初心を忘れることなく、この理念に基づき、地域に根付いた医療を提供していきます。
理想を掲げることは決して難しい事ではありません。しかし、理想を掲げ、体現し、初心を忘れることなく貫き続けることは決して容易なことではないと考えています。
株式会社ながせの代表取締役として、この理念を胸に刻み、関わる全ての人達と共に在り続けることを、いつまでも大切にしていきます。

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石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

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