司法書士事務所の現在の注力分野
石塚:前編では、藤川さんの企業家としての波乱万丈なストーリーを伺いましたが、今回は司法書士事務所として現在注力している取り組みについて伺っていきたいと思います。
藤川さん、今はどのような業務を中心にされていますか?
藤川: 今、特に力を入れているのは「相続」に関する業務です。司法書士事務所として相続登記や遺言作成のサポートを行うことはもちろんですが、株式会社の立場から見ると「事業承継」も大きなテーマです。中小企業の社長の場合、個人資産と会社の資産が混在しているケースが多く、相続や承継の際に非常に複雑な問題が出てきます。そうした部分を整理して経営者を支援することに注力しています。
相続分野に取り組むきっかけ
石塚: 企業支援やご自身の起業経験を経て、なぜ「相続」に注目されたのですか?
藤川: 実は株式会社時代から相続分野には関心を持っていました。ご存じの通り日本は高齢化社会で、相続の需要は今後確実に増えると考えていました。家系図の作成や、財産を可視化するようなビジネスモデルを構想していた時期もあります。そんな中、知人の紹介で信用金庫の方と出会い、「相続ビジネスを展開したい」という要望をいただきました。そこから一緒に仕組みを作ることになったのが10年ほど前です。
石塚:金融機関も「相続」「遺言」という言葉を積極的に使い始めた頃ですよね。
藤川: そうですね。当時は信託銀行が相続サービスのメインプレイヤーでした。ただ、信託銀行でなければ扱えない領域もあり、信用金庫には限界がありました。そこで新しい受け皿をつくる必要があり、「一般社団法人つなぐ相続支援センター」を設立しました。私はその代表も務め、信用金庫のお客様向けに遺言や遺産整理をサポートする仕組みを整えました。

専門家ネットワークによる相続支援
石塚: 具体的には、どんな体制で相続支援をされているのですか?
藤川: 司法書士、行政書士、税理士が中心です。もちろんケースによっては弁護士も関わりますが、実際に相続業務を進めてみると、弁護士が必要になるトラブル案件は思ったほど多くありませんでした。むしろ「税理士と司法書士」がメインとなり、相続財産の整理や登記、遺産分割協議のサポート、税務対応を軸に進めるケースがほとんどです。
石塚: 相続といっても一様ではないですよね。
藤川: まさにそうです。相続は一つとして同じものがありません。10件あれば10通り、100件あれば100通りのストーリーがあります。相続人全員で協議し、財産をどう分配するのかを決める過程は、手続きの煩雑さ以上に「人の想い」が絡み合います。そこに専門家として関わることに大きな意味とやりがいを感じています。
印象に残る相続案件
石塚:印象に残っている案件があれば、ぜひお聞かせください。
藤川: ある中小企業の経営者の方のケースです。その方は小学生の時に両親が離婚され、妹さんとは幼くして離れ離れになりました。父と暮らす一方で、妹さんは母の元で育ちました。父は再婚し、新しい家庭ができましたが、その義母や異母兄妹との関係は良くありませんでした。唯一の拠り所は、自分が受け継いだ会社と社員たち。会社を家族同然に思って大切にされていました。
しかし60歳を過ぎて病を患い、余命も短い中で「会社に財産を残したい」と遺言作成を希望されました。私は入院先で面会しましたが、次の面会を約束した矢先に亡くなられてしまい、遺言を遺すことはできませんでした。
石塚: 遺言がなければ相続人間の遺産分割協議になりますね。
藤川:そうです。戸籍を調べると社長が亡くなった時点では別れた母が存命でしたが、その後亡くなっていることがわかりました。その母の相続権は、妹や母の再婚後の子どもに移るという複雑な展開になりました。会社の従業員から「社長の意思を尊重して財産を会社に残したい」という依頼を受け、私は相続人たちに事情を手紙で丁寧に説明しました。
通常なら権利を主張されてもおかしくない状況でしたが、最終的には社長の意思を尊重してくださり、会社に一部の財産を渡す形で合意を得ることができました。本当に大変でしたが、意思をつなぐことができたと感じた案件でした。
相続支援の面白さとやりがい
石塚:まさに「人の想いをどう汲むか」という仕事ですね。
藤川: 法律知識や手続きのスキルだけでなく、いかに当事者の気持ちに寄り添うかが問われます。特に経営者の方は「会社は自分の子ども同然」とおっしゃる方も多く、その気持ちは私も痛いほど理解できます。だからこそ、専門家として冷静に整理しながらも、経営者の思いを大切にすることが私の役割だと思っています。
石塚:ご自身が企業家として浮き沈みを経験されてきたからこそ、経営者に共感できる部分も大きいですよね。
藤川: まさにそうです。私自身の経験があるからこそ、経営者の悩みや葛藤を肌感覚で理解できます。その上で一緒に「納得できる選択肢」を探すことを大事にしています。

リーガル・アソシエイツ-今後の展望
石塚:今後の展望について、ぜひお聞かせください。
藤川: 相続分野には引き続き注力していきたいと思っています。特に、事業者の方々の「相続対策」や「承継後の手続き支援」ですね。経営者の方が亡くなられた後、会社や財産をどう整理し、どう未来へつなげるかは非常に重要です。
現在は後継者不足が深刻で、M&Aなどの出口戦略も選択肢として広がっています。ただ「誰かに無理に継がせる」のではなく、時には「どう畳むか」という選択も大切です。会社は経営者の人生そのものでもあり、どんな形で幕を引くのかもまた一つの経営判断です。
私としては、その“人生の最終章”を経営者と一緒に考え、最も幸せな形で収束できるように寄り添いたいと思っています。
石塚: まさに「経営者の隣に立つ」という姿勢ですね。
藤川: そうですね。これからも「町医者」のように同じ目線で議論し、納得のいく決断を共に導き出す。そのために、私は経営者の伴走者であり続けたいと思います。
編集後記
後編では、司法書士事務所リーガル・アソシエイツが現在注力している「相続支援」に焦点を当てました。藤川さんの言葉から印象的だったのは、相続という業務が単なる手続きではなく「人の想い」をつなぐ仕事であるという点です。
遺言が間に合わなかった経営者の案件でも、残された意思をどう実現するかに奔走し、最終的に会社へ一部の財産を渡すことができたというエピソードは強く胸に響きました。
また、相続には100人いれば100通りのストーリーがあり、その一つひとつに真摯に寄り添う姿勢こそが藤川さんの強みです。自身も企業家として浮き沈みを経験したからこそ、経営者の気持ちに共感できる。だからこそ「町医者のように深く関わりたい」という言葉には重みがありました。
今後は事業承継や会社の“畳み方”にも焦点を当て、経営者の人生の最終章を共に考える伴走者であり続けたいという藤川さん。資格者の枠を超え、経営者の心に寄り添う専門家としての姿を改めて実感できる対談でした。
ご紹介
Profile

司法書士事務所リーガル・アソシエイツ
代表司法書士
相続・事業承継・M&A・事業再生など複雑な案件に精通する専門家。
大手証券会社や法律事務所での経験を経て1993年に司法書士事務所を開設。
2000年には国家資格者を束ねたリーガル・アソシエイツを設立し、ワンストップ体制で経営者を支援。
2016年には信用金庫と連携し相続支援センターを設立、以降遺言作成600件超、遺産整理1000件超を解決に導く。
依頼者の想いを丁寧に受け止め、調整力を活かして「ややこしい相続」を円滑な承継へつなげる姿勢で、数多くの信頼と感謝を集める。

株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。
■編集長インタビュー
「メディア「Shikisai」立ち上げの背景とは?株式会社ウェブリカ・石塚直樹が語る地域企業活性化のビジョン」