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木を残す街づくりが、暮らしを変える
自然との共生を大切にした“まちづくり”が、いま全国で広がりを見せています。
今回ご紹介するのは、一般社団法人 環境共生まちづくり協会が取り組む、自然を活かした住宅開発の実例です。
神奈川県川崎市では、もともとあった樹木をなるべく残したまま街をつくったところ、夏でも驚くほど涼しく感じられる住宅地が誕生。木陰や風の通り道が快適さを生み出し、「エアコンに頼りすぎない暮らし」が現実のものとなっています。
高断熱住宅と太陽光の“注意ポイント”も
最近では、高断熱・高気密の住宅や太陽光パネルの設置が注目されていますが、思わぬ落とし穴も。
「断熱性が高すぎて、夏は熱がこもってしまう」「太陽光を後から載せたことで建物に負担がかかる」など、実際に起きている問題と、その対策についても詳しくお話しいただきました。
住宅や街の“つくり方”が変わる今、設計だけでなく住まい方の工夫も求められています。
まちづくりに関わるすべての人へ
協会では、大手ハウスメーカーや地域の工務店、不動産業者など、さまざまな立場の方々が知恵を持ち寄りながら、環境に配慮したまちづくりを模索しています。
「ちょっと涼しい」「空気が気持ちいい」そんな暮らしを、私たち自身の手でつくっていく時代。
一般社団法人 環境共生まちづくり協会では、こうした実践的な取り組みを紹介しながら、持続可能な街の未来に貢献していきます。
環境共生まちづくり協会とは
一般社団法人環境共生まちづくり協会は、当時の建設省(現・国土交通省)の呼びかけで、産官学が集まって発足した団体です。
運営委員長の栗原純一さんは工学博士で、住宅メーカーの社員でもあります。もともとは会員企業の担当者として参加していたところ、年数を重ねるうちに運営委員長を務めることになりました。専門は建築系・環境系、特に建物の省エネ性です。
協会の考え方は、発足から大きく変わっていないといいます。
周辺の環境、より広い地球の環境、そして住宅内の環境。この3つがうまくバランスするようなことを、みんなで考えていく。
会員は大手ゼネコン、大手ハウスメーカーから、町場の工務店まで。業界として宣言を出し、必ずしも全部やらなければいけないわけではないけれどできる範囲でその意識を持って活動しようという趣旨の協会です。
環境負荷の少ない家づくりは近年のテーマに思えますが、この協会はかなり早い段階からそこに着目してきました。
木を切らずに、木を避けて家を建てた住宅地
栗原さん自身が「まちづくり的にすごくうまくいった」と感じている事例が、神奈川県川崎市の小さな住宅地でした。
その土地は樹木がものすごく多い場所でした。通常、まちづくりをするときは樹木を全部伐採してしまいます。
ところがこの住宅地では――
それをやらずに、極力樹木を残して、樹木を避けながら建物を建てた。
結果は、栗原さん自身の予想を超えていました。
暑い日に駅から歩いて行くと、そこに入った途端にものすごく涼しい。
「こんなに違いがあるとは思っていなかった」と栗原さんは言います。設計次第でこうなるのか、と。それ以来、その考え方をもっと広めなければいけないと思い、あちこちで取り組んでいるそうです。
なぜ、普通は木を切るのか
そもそも、なぜ木を切ってしまうのか。理由は単純明快でした。
建物を効率よく並べるため。土地の面積に対してなるべくたくさん住居を建てたほうが、たくさん売れるから。
樹木を残すということは、その分だけ区画を詰められないということです。栗原さんも、そこは率直でした。価格の面でなかなかそこまでできないこともある。
ビジネスとしての論理と、どう折り合いをつけるのか。この問いに対する答えも正直なものでした。
それは、おやりになる会社さんのその時のご都合。そこまでは踏み込めない。
日本一暑い街で、2度下げた
もう一つの事例が、埼玉県熊谷市――日本で最も暑い街として知られる場所です。
約70戸の住宅地を作るにあたり、暑いと分かっているのだから自然の力で涼しくできないかという発想から設計が始まりました。
やったことは、こうです。
- 北東の角に公園を配置。そこには井戸があり、水を撒ける
- 公園には桜などの樹木があり、そこでも冷える
- その場所は東から風が吹いてくることが多いため、涼しくなった風が道に沿って住宅地全体に行き渡るように設計
効果は数字で出ています。
暑い日には、2度ほど下がっている。
この住宅地は2015年に完成し、すでに多くの方が暮らしています。なかには熊谷にお住まいで、わざわざそこに引っ越してきた方もいるそうです。
住民からは、夏の初めや終わりの時期にだいぶ涼しく感じるという声が届いているとのことでした。
太陽光パネルを、むやみに載せると危ない
協会が取り組んできたテーマとして、この回でいちばん実用的だったのが太陽光発電の話でした。
新築だけでなく既存の建物にも太陽光を載せようという機運が世の中にあります。それに対して栗原さんは、こう指摘します。
むやみに載せると、まずいことが起きるかもしれない。
理由は、建物の構造にあります。
地震のときに一番肝心なのは、頭が軽いこと。
ところが太陽光パネルは1枚で十数キロあり、それが十数枚載ればそれなりの重さになります。
そして問題は、その先でした。
それをやっても大丈夫な住宅かどうかを、今のところ誰もチェックしないまま載せて、売っている。
特に古い戸建て住宅は、構造をチェックしていない場合があるといいます。だから協会では、注意点をまとめたリーフレットを作成しました。
栗原さんが勧める手順はこうです。
構造をチェックする専門家がいるので、できればその人に見てもらい、必要な補強をしてから載せてほしい。
これは太陽光を否定する話ではありません。栗原さんの言葉では「せっかく載せるのだから、安心して使える状態で」ということです。
断熱性能が高すぎる家で、何が起きるか
協会が現在まとめているのが、高断熱住宅の正しい住まい方と設計についてです。
背景には、こんな状況があります。
住宅の断熱性能は基準としてすごく高くなってきているが、そのレベルの住宅に住んだことがある人が少ない。何が起きるか分からないまま建てて、住み始めている方がいる。
では、何が起きるのか。栗原さんが挙げた例が、意表を突くものでした。
春のうちから、下手をすると冷房をしなければいけなくなる。
仕組みはこうです。断熱性能が高いということは熱が逃げないということ。すると日射が入ってしまうと、その熱が逃げない。
結果として――
暖房の負荷は減っていくが、逆に冷房の負荷が増えてしまう。それでは意味がない。
だから、これからは日射の遮蔽が今よりもっと大事になる。設計段階でも注意が要ります。
南に大きな窓を作ってしまうと、日射が入りすぎることになりかねない。
上手に住めば、ずっと省エネで快適に暮らせるはずの住宅です。だからこそ、その住まい方を伝える必要がある――というのが今の取り組みでした。
住宅の8割は、地域の工務店が建てている
協会の活動をより良くするために何が必要か。栗原さんが挙げたのは、会員の広がりでした。
会員は100数十社。ただ、建設系や建築設備の会社が多いのが現状です。そこで入ってほしいのが2種類ありました。
1つは、不動産・開発(デベロッパー)に関わる方。
理由は、現場から聞こえてくる声にありました。
ゼネコンの方と話していると「自分たちは分かるんだけど、デベロッパーの意見に従わないといけない」と言われることが時々ある。
つまり、最も事業的な判断をする側が同じ認識を持ってくれると変わる、ということです。
もう1つは、地域の工務店。
その理由として示された数字が、意外に知られていないところでした。
大手ハウスメーカーが手がけている住宅は2割ほど。残りの8割は、地域の工務店が建てている。
一社一社は小さくても、集まれば大きな力になる。だから工務店にもこの考え方を理解してほしい、と。
設計者と入居者、どちらか一方が知っているだけでは「掛けるゼロ」
ビジネス上の論理を超えるにはどうすればいいか。あえて尋ねられた栗原さんの答えが、この回の結論でした。
入居者にこういうことを知っていただいて、入居者側から要望が出るようにする。
だから協会は、一般向けの発信も行っています。そして、その必要性を栗原さんはこう説明しました。
設計者と入居者は、どちらも知らないとその話にならない。どちらか一方が知っているだけだと「掛けるゼロ」だからダメ。両方が少しずつ知っていてくれないと、話が進まない。
やりがいについても、静かな言葉で語られています。社会のニーズが環境とうまく生活していく方向になっているなかで――
住宅や建物を建てて街を作っていくときに、極力そういう配慮をして進められることに関与できている。
なお協会では、年度ごとの活動内容をまとめたリーフレットをホームページで公開しているとのことでした。
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。基準・数値・事例は収録時点で語られた内容であり、実際の設計・施工の判断は建築士等の専門家にご相談ください。
ご紹介
Profile
一般社団法人 環境共生まちづくり協会
運営委員長
ミサワホーム株式会社 技術担当顧問
一般社団法人環境共生まちづくり協会 運営委員長
一級建築士
主に、住宅の省エネルギー性能向上、自然エネルギー利用、住宅用太陽光発電、 「ゼロ・エネルギー住宅」等の開発に従事。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。
