北海道浦河町の建設会社社長・神馬充匡氏が語る「町残し」の理念。家づくりを通じたコミュニティ創造と、未来を見据えた住空間設計の哲学。過疎化に立ち向かう地域工務店の挑戦と、「帰る場所」としての家の新しい価値観を提案する30分。最後までお聞きください!
有限会社神馬建設とは──浦河町で53年
有限会社神馬建設は、北海道浦河郡浦河町にある地域の工務店です。創業から53年。代表取締役の神馬充匡さんは三代目にあたり、祖父が始めた会社を受け継いでいます。
神馬さんが掲げているのが「町残し」という言葉です。建築という仕事が地域づくりに密着していることを、さらに広げながらやっている会社だといいます。
「田舎の町を出たくて」土木へ進んだ
もっとも、最初から家業を志していたわけではありません。むしろ逆でした。
田舎の町を出たかった神馬さんは、進学の際に建築ではなく土木を選びます。本人いわく「なんとなく近そうなイメージで、間違って土木のほうに行った」。
卒業後も土木の道を歩みますが、続けるうちにある違和感が積み重なっていきました。
土木は公共事業であり、みんなのための仕事のはずです。ところが現場では、地元の住民から「なんでこんな仕事をしてるんだ」「ここにこんなものが要るんですか」と言われることが多かったのです。
「ちゃんと親父の仕事を見てるのか」
転機は、休みに地元へ帰ったときに訪れます。
神馬建設で家を建てたことのあるおじさんに、こう声をかけられました。「お前、神馬の息子だよな」「ちゃんと親父の仕事を見てるのか」と。
そして続けて言われたのが、この言葉でした。
「俺はこういう家が欲しい、とお前の親父に頼んだら、それ以上のものを作ってくれるんだ。ちゃんと親父のやってることを見ろ」
そのとき神馬さんは気づきます。自分がしたかったのは、そういう「顔の見える仕事」だったのだと。32歳で地元に戻りました。
学生時代に実家でアルバイトはしていたものの、10年も経つと使うものも技術もすっかり変わっていました。そこからは独学です。周りにいる大先輩たちに聞き、一緒にやりながら覚える。加えてインターネットが充実してきたことで、知識を広げることもできた。そうやって現在に至ります。
なぜ理念経営なのか
神馬さんが力を入れているのが理念経営です。
理由は、この土地の現実にありました。人があまり入ってこない。そして出ていきやすい。だからこそ理念が大切だと考え、大切にしている価値観をコアバリューとして言葉にしています。
掲げているのは7つ。たとえば――
- 何事にも誠実に向き合い、妥協しない
- プロ意識を持つ
- 物や道具を大切に扱う
- 思いやりを大切にする
- 高い成長意欲を持ち、変化を大事にする
- 誠実さと素直さを忘れない
- 仲間を大切にする/まずは自分から
並べてみれば、どれも当たり前のことに見えます。神馬さん自身もそう認めたうえで、こう続けました。
「当たり前と思うじゃないですか。けれど意外と、どこかが欠けている方もいらっしゃる。」そうすると本人が居づらくなり、出ていくことになる。結果として残ったメンバーの結束力はより硬くなる。理念を文字にすることで、会社はすごく強くなったと感じているといいます。
職人が誇りを持つようになった
導入前と後で何が変わったのか。神馬さんが挙げたのは、働く人の変化でした。
職人たちが、自分たちのやっていることに誇りを持つようになった。
プロ意識をきちんと持つこと、物や道具を大切に扱うこと。もともとあった感覚が、言葉として文字になったことで、より行動に表れるようになったといいます。
大工の数は6割減っている
浦河町は、決してアクセスの良い場所ではありません。人口も減り続けています。
そして神馬さんが挙げた数字が、この業界の現実を突きつけます。職人――大工の数で言うと、6割減っている。半分以下になってしまったということです。
家を建てる人がいなくなれば、町の姿は維持できません。53年にわたって浦河町の家を建て続けてきた会社が「町残し」を掲げる理由は、まさにここにあります。
公共事業の現場で「なんでこんな仕事をしてるんだ」と言われ続けた人が、「それ以上のものを作ってくれる」と言われる仕事を選んだ。その選択が、いま町を残すという話につながっていました。
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。
公式サイトはこちら:https://jinba-kensetsu.com/

ご紹介
Profile
有限会社 神馬建設
代表取締役
1977年、浦河町生まれ。苫小牧工業高等専門学校・土木課を卒業後、平成10年(1998年)に岩倉建設に入社。苫小牧本店・土木課に12年所属しながら、うち10年を関東で勤務、土木現場の監督などを務める。平成22年(2010年)、有限会社 神馬建設に入社。先代の逝去を受けて平成30年(2018年)に3代目代表取締役に就任。セミナーやコンサルタントを活用して意欲的に経理・財務を学び、社のMVVを掲げ、キャリアアップ制度を充実させたほか、インターンシップも積極的に受け入れている。また、浦河町および周辺エリアの地域活性化にも積極的に尽力する。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。■編集長インタビュー「メディア「地域色彩」立ち上げの背景とは?株式会社ウェブリカ・石塚直樹が語る地域企業活性化のビジョン」https://chiiki-shikisai.com/webrica-ishizukanaoki/