プログローバル人事のエキスパート、藤間さんが大企業での経験を通じて語る、地域を超えたグローバル視点の重要性とリーダーシップの極意についての洞察を学べる機会です。ぜひお聞き逃しなく!
目次
「人事で経営を、そして日本を強くする」
藤間美樹さんは、株式会社HR&Bの代表取締役。人事コンサルタントでありエグゼクティブコーチです。
掲げている理念は明快でした。
人事で経営を、そして日本を強くする。
ちなみに「美樹」という名前について、ご本人はまず「美樹と言いますが、男です」と自己紹介していました。
教授推薦を断って、営業になった
藤間さんは神戸大学の理系出身で、微生物の研究をしていました。
就職では教授推薦を持っていました。当時は教授推薦があれば必ずそこに行かなければならない時代です。ところが別に受けた製薬会社から「営業で採りたい」と言われます。
教授に相談すると、返ってきた答えがこうでした。
「営業なら製薬会社のほうが企業としていいぞ」――そして「お前の人生だ、俺のことは気にするな」。
その一言があったから今がある、と藤間さんは振り返ります。理系の学生を「営業で採りたい」と言った側のセンスもまた、この回で話題になっていました。
営業から人事へ。きっかけは海外への手上げだった
営業が大好きだった藤間さんが人事に移ったのは、意図した異動ではありませんでした。
本当にやりたかったのは海外へのチャレンジで、社内の選考試験に手を挙げて合格します。ところがそのとき、組合の幹部を務めていました。幹部は異動できません。
任期が終わるまで待つことになるのですが、組合の交渉相手は人事です。
目をつけられてしまい、任期が終わると同時に人事へ。
英語については、大学時代にESSで鍛えたものの15年眠っていたため、勉強し直しだったそうです。
海外で受けた「強烈なカルチャーショック」
海外で藤間さんが最も衝撃を受けたのはリーダーシップでした。その理由の説明が、構造的で分かりやすいものでした。
日本は一つの会社に入ったらずっといる。だから上司は部下のことを考えなくても部下は辞めないし、やれと言えばやる。
海外は違います。
どんどん人が動くから、上司は自分がリーダーシップを発揮して「魅力ある人だ、この人と一緒に仕事しよう」と思わせないとダメ。
特に目から鱗だったのは、社長がアメリカ人だった会社での経験です。
彼らは常にリーダーであることを意識して、みんなの前でリーダーシップを見せる。ところが――
1on1になると、ものすごくフレンドリー。後光が差すようなリーダーが、自分の前でこんなにフレンドリーなのか、と。
それでついていきたくなる。「この人みたいになりたい」と思う。
そしてもう一つ、決定的な違いが挙げられました。
全部、自分の言葉で説明する。「社長が言っているから」なんて一言も言わない。読み上げることも絶対にない。
「今日、君と話してなかったから」
海外のリーダーの在り方として、藤間さんが挙げた具体的なエピソードが印象的でした。
駐在時代の人事部長は、夕方になると藤間さんのところに来たそうです。最初は「何かあったのか」と驚きました。
返ってきた答えは、こうでした。
「いや、美樹、何もないよ。今日、君と話してなかったから。ちょっと挨拶しに来ただけ」
それだけで嬉しい。そして来れば何か話す。話せば部長の考えが分かるし、「実はこんなに悩んでいる」と言えばその場が即席の相談会になる。
この積み重ねが大きい。
藤間さんの言葉を借りれば、海外のリーダーは些細なことで人のモチベーションを上げることをやっている、ということです。
なぜグローバルから、日本に戻ってきたのか
グローバルに憧れ、グローバルに行き、日本のグローバル化に取り組んできた藤間さん。社長も人事のトップも外国人という「本当のグローバル」も見ました。
そこで感じたのが「どうも日本人がついていけていない」ということでした。
そこで日本式のグローバルの在り方を求めるようになります。ところが、よく見ると別の問題がありました。
失われた30年。グローバルグローバルと言っている場合ではなく、日本自体がもっと何とかならなければいけないのではないか。
藤間さんの見立てには、はっきりした前提があります。
日本人一人ひとりの能力が海外に負けているとは思わない。令和の日本人が昭和の日本人に負けているとも思わない。
では、なぜこうなっているのか。
一人ひとりの能力を組織として発揮させること――組織開発、人の動かし方、組織の動かし方が下手なのではないか。
そこは海外のやり方から学ぶところがある。最後はそれを発信したい――そう考えて独立しました。ちなみに独立を告げたとき、奥様は食欲不振になったそうです。
「戦略的人事」とは何か
HR&Bのメイン事業は経営者の戦略的人事アドバイザーです。
その必要性を、藤間さんはこう説明しました。
経営者は当然、経営戦略を持っている。しかし「戦略があるからできる」と思うと大間違いだ、と。
誰がするんですか。人ですよね。しかも一人ではだめで、組織でやらなければいけない。
立派な戦略があっても、それを実行して成果を出すのはいかに人と組織を動かすか。だから人事の専門家としてアドバイスすることが大事になる、というわけです。
「社長が言っているから」で全部通る組織は危ない
日本企業でそれができていない理由として、藤間さんが真っ先に挙げたのがこれでした。
「社長が言っているから」で全部通るところ。これはダメ。
社長の言うことが間違っている、という意味ではありません。問いは別のところにあります。
社長が言っていることを、皆さんちゃんと理解していますか。
社員が100人、1,000人、1万人といれば、理解の仕方はそれぞれ違う。全員が同じように理解するのは無理だ、と。
ここで示された日本と海外の対比が、この回でいちばん実務的な指摘でした。
日本は、年頭挨拶などで社長が1時間あれば1時間しゃべって「以上」で降りる。
海外は、1時間あったら社長がしゃべるのは15分。残りの45分は質疑応答。
しかもその中身が違います。「社長が今おっしゃったことが分かりません」「私のところでこんなことが起こっています」「私はこうしたらいいと思います」――日本人の感覚では失礼に思えるやりとりです。
ところが、社長の側はこうだといいます。
喜んでいる。「そうか、君たちはそう思うか」「これは伝わっていないのか」と、社長にもものすごく学びがある。
これは強い。組織が強くなる。
では、どうすればそうなるのか
そうした場を作るために必要なものとして、藤間さんは2つ挙げました。
1つは心理的安全性。ここで何を言っても馬鹿にされない、自分の安全が脅かされないという状態です。
もう1つが、日本特有の壁でした。
同調圧力。手を挙げようと思っても「変なことを言っていると思われたらどうしよう」「的外れだったらどうしよう」となる。
これをどうクリアするか。藤間さんの答えは、はっきりしていました。
トップから変えるしかない。トップの人を替えるのではなく、トップの考え方と行動を変える。社長がやることを変えたら、ころっと変わる。
組織の規模についても言及がありました。10人なら大丈夫でも、50人になると困ってくる。立ち上げた仲間は同じ思いでやっているので通じるけれど、後から入ってくる人はそうではない。だからきちんと伝える仕組みが要る、と。
経営理念が「刺さっていない」社長には
実際の進め方も具体的でした。まず社長がやりたいことは何かを聞く。明確に持っている社長なら、それをどう実現するかを考える。
「とにかく思うように動いてくれない」という場合は、経営理念・企業理念について社長と話すそうです。
そして時に、こういう告白が出てきます。「これは先代が作ったもので、実は俺に刺さっていないんだよな」。
そのとき藤間さんは「考え直しませんか」と提案します。理由は明確でした。
社長が経営理念を体現しなければ、組織はまとまらない。社長のやることと理念が違うと、従業員はどっちを向いたらいいのか分からなくなる。
すべてを解決する「キラークエスチョン」
この回でいちばん持ち帰れるのが、この部分です。
「何を成し遂げたいか」を持てない若手が多い、という話題に対して、藤間さんはリーダーが使えるキラークエスチョンが一つあると言いました。
「君はどう思う?」
「意見が出てこない」と悩む社長にも、同じ処方箋です。意見が出てこないなら、聞けばいい。
ポイントは、いきなり大きな問いを投げないことでした。
「何がしたい」はハードルが高い。だから会議が終わった後などに「お前はどう思う?」と聞く。
そう問われ続けると、人は変わります。
いつも「どう思う」と問われると、話を聞きながら「自分の仕事だったらこれはどうなるのかな」と、自分の中で咀嚼するようになる。
その習慣がつけばいずれ「私は人生でこういうことを成し遂げたい」に辿り着く、と。
そして、なぜ「どうしたい」ではなく「どう思う」なのか。ここに明確な理由がありました。
フィードバックは過去のこと。「お前、何やってんだ」と言っても事実だから、修正のしようがない。
「どう思う」「どうしたい」はこれからのことだから、自分で考えられる。しくじったと思っても「これはこうしたらいいと思います」と言える。自主性が出る。
これは子どもの躾も同じだと藤間さんは言います。「あれしなさい、これしなさい」では「分かりました」というお利口さんができる。そうではなく「どう思うの?」「何がしたいの?」と聞く。「ゲームがしたい」と言われたら「じゃあゲームばかりしていたらどうなると思う?」と返す。
これがコーチングです。
日本と海外で、働く動機の構造が違う
個人の側についても、藤間さんは雇用システムの違いから説明しています。
日本は一つの会社に入って定年までいることが多い。すると入った瞬間、悪いことをしなければ定年までの給料は入ってくる。
その環境で生きていく術は、その会社で勤め上げること、使いやすい人であること――少し言い過ぎかもしれませんが、と断りつつ、そう指摘します。
海外は違います。
食っていくためには自分の能力を高め、専門性を高めなければならない。だから自ずと「何を成し遂げたいのか」という思いをみんな持っている。
そのうえで重要になるのが、経営の思いと従業員一人ひとりの思いが合致するかどうかです。
合致させると、むちゃくちゃ強い。
対して日本はトップダウンで「やれ」と言う。「分かりました」とはなるが、気持ちが入っていない。
だから一人ひとりが「リタイアして人生を振り返ったとき、私はこういうことをやったよな」と思えることを持つのが大事だ、と藤間さんは語っていました。
社長本人ではなく、一段下のケースを質問する
コンサルティングの現場で使っている技術も明かされました。
コンサルティングは基本的に提案し、答えを提供するものです。ただ、それでは腹落ちしないことがある。
そこで藤間さんは、人事アドバイザーとして社長と接するなかにコーチングのスキルを入れて、社長自身が気づくようにもっていきます。
その具体的なやり方が、うまいところでした。
社長と役員の関係に問題があると思ったときは、「役員と部長」のケースを取り上げて質問する。
会社のカルチャーは似ているので、社長と役員の関係に似た構図が、役員と部長の間にもある。それについて尋ねていくうちに――
「それは目の前のあなたですよ」と、どこかで気がついてもらう。
理由も人間くさいものでした。人は言われたらやろうと思っていたことでも「こんちくしょう」と思ってやらなかったりする。けれど自分が気づいたと思ったら、やる。
エグゼクティブコーチのゴールについても、はっきり定義されていました。
目の前のクライアントが変わることは、最終目的ではない。その方の行動が変わって組織が変わり、組織が変わって業績が上がる、課題が解決する。それがゴール。
だから考え方を変えただけでなく、行動に移してもらうところまで頑張る。
そして、よくあるつまずきのパターンを尋ねられたときの答えが、この回の結論のようでした。
人の意見を聞いていない。
「社長が言っているから」ですべて済むので、下も確認しない。部長が役員に尋ねても「それは俺も知らんけど、お前が考えろ」となる。それでは意味がない。
もっと人の意見を聞いたほうがいい。
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。内容は収録時点のものです。
公式サイトはこちら→https://hrandb.com/
ご紹介
Profile
株式会社HR&B
代表
1985年に藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬株式会社)に入社し、営業、労働組合、人事、事業企画を担当。2005年にバイエルメディカル株式会社に人事総務部長として入社、グローバルPMIを推進。2007年に武田薬品工業に入社し人事のグローバル化を推進し、70数か国を管轄する本社部門のHRビジネスパートナーのグローバルヘッド等の要職を歴任。2018年に参天製薬に入社し、執行役員人事本部長として人事組織のグローバル化と人事制度改革を推進。2020年に積水ハウスに入社し、執行役員人財開発部長としてジョブ型の人事制度改革を実施。アメリカに3回駐在し、 M&Aは海外案件を中心に10件以上実施。 2023年4月に株式会社HR&Bを創業、人事コンサルタントとエグゼクティブコーチとして活動。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。