養成所に通っていれば、いつか仕事がもらえる。
そんな前提が、少しずつ崩れていく感覚があったという。
通えば通うほど、「これで食べていくのは無理かもしれない」と感じるようになる。競争の多さ、継続の難しさ。その現実を前にして、畑さんが選んだのは、自分で仕事を取りにいくというやり方だった。
スタジオではなく自宅で録る。単価は370円から。それでも続けた結果、少しずつ仕事の量は変わっていった。
目次
養成所に通うほど、「このままでは無理だ」と感じていった
石塚:
最初は声優の養成所に通われていたんですよね。
畑:
そうですね。養成所に通っていました。ただ、通えば通うほど「これで食べていくのは無理だな」と思うようになっていきました。
石塚:
通っている中で、そう感じた理由は何だったんですか?
畑:
やっぱり、なりたい人が多いんですよね。人数が多い分、競争も激しいですし。
それに、一時的に仕事があったとしても、それがずっと続くかというと、そうではないと感じていました。
石塚:
「なれるかどうか」よりも、「続けられるかどうか」に不安があった?
畑:
そうですね。続けていくイメージが持てなかったです。
「待っていても仕事は来ない」と気づいて、自分で取りにいくことにした
石塚:
そこから、どう動いたんですか?
畑:
事務所に入っても仕事がない状況だったので、「待っていても来ないな」と思いました。
だったら自分で取りにいくしかないなと。
石塚:
なるほど。
畑:
それで、自宅で録音して納品する、いわゆる宅録の形に切り替えました。
石塚:
スタジオではなく、自宅で。
畑:
はい。スタジオと比べるとクオリティは多少落ちるんですが、その分、安くて早く対応できるので。
最初は仕事が取れない。それでも370円の案件を受け続けた
石塚:
切り替えてすぐ、仕事は取れたんですか?
畑:
いや、最初は全然取れなかったですね。
応募しても通らないですし、そもそも選ばれないことが多かったです。
石塚:
その中で、どうやって続けていったんですか?
畑:
とにかく受けられる案件は受けていこうと思って、370円の案件とかもやっていました。
石塚:
かなり低単価ですよね。
畑:
そうですね。ただ、その時は金額よりも実績を作ることを優先していました。
何も実績がないと、そもそも次の仕事にもつながらないので。
実績ができたことで、「この人に頼める」と伝わるようになった
石塚:
流れが変わったタイミングはありましたか?
畑:
ありましたね。BMWの案件と、テレビ番組のナレーションです。
石塚:
その2つが大きかった?
畑:
はい。それを実績として出せるようになったことで、「このレベルの仕事ができる人なんだ」と伝わるようになりました。
石塚:
見せられる材料ができた。
畑:
そうですね。それ以降、少しずつ仕事が増えていきました。
結果として、月20万円くらいは安定して稼げるようになりました。
YouTubeとの出会いは、小さなチャンネルから始まった
石塚:
YouTubeとの関わりはどこからだったんですか?
畑:
「ヒューマンバグ大学」というチャンネルですね。
最初は、登録者もそんなに多くなくて、再生数も100とか200くらいの規模でした。
石塚:
かなり初期の段階ですね。
畑:
そうですね。そこから、ある動画がきっかけで一気に伸びていきました。
石塚:
そこから変わった?
畑:
はい。チャンネル自体が伸びたことで、ナレーションの仕事も増えていきました。
チャンネルが増えるほど、ナレーターの数が足りなくなっていった
石塚:
YouTubeに関わるようになってから、仕事の量はどう変わりましたか?
畑:
単純に増えましたね。
チャンネルも増えていったので、それに合わせてナレーションの本数も増えていきました。
石塚:
1人では回しきれない?
畑:
そうですね。それに加えて、クライアントから「別の声も欲しい」と言われることも増えてきて。
その流れで、事務所という形に変わっていった
石塚:
それで事務所を作ったんですね。
畑:
はい。その都度人を探すのが大変だったので、それなら最初から人を抱えた方がいいなと思いました。
石塚:
必要に応じてではなく、あらかじめ用意しておく。
畑:
そうですね。その方が対応もしやすいので。
それでも足りないから、今は「育てる」方向にしている
石塚:
さらにスクールもやられていますよね。
畑:
はい。理由はシンプルで、人が足りないからです。
石塚:
まだ足りない?
畑:
足りないですね。スカウトだけだと追いつかないので、育てた方が早いなと。
宅録だからこそ、「理解する力」がより求められる
石塚:
ナレーターとして大事なことは何だと思いますか?
畑:
演技力ももちろん大事なんですが、それ以上に「何を求められているかを理解すること」ですね。
石塚:
理解する力。
畑:
はい。宅録の場合、ディレクターがその場にいないので、台本やチャットの情報だけで判断しないといけないんです。
その中で、どういう読み方を求められているのかを汲み取る必要があります。
今後は「漫画→動画」という流れが増えていく
石塚:
今後についてはどう見ていますか?
畑:
漫画からアニメになるだけじゃなくて、漫画から動画を経由する流れが増えていくと思っています。
石塚:
動画が一つのステップになる。
畑:
そうですね。
編集後記
今回の話で一番印象に残るのは、「仕事がない状態で何をするか」という一点に尽きる。
養成所に通っていても仕事は来ない。事務所に入っても仕事はない。
その状況で、待つのではなく取りに行く側に行っている
しかも最初は370円の案件から。
金額で見れば小さいが、「実績がないと次の仕事につながらない」という前提で考えると、この選択は筋が通っている。
実績を作る → 公開できるようになる → 次の仕事が来る。
発言をそのまま追っていくと、この流れが繰り返されている。
特別な方法というよりも、「何が足りないか」を見て、それを埋める動きを続けています。
その積み重ねが、結果として仕事の量や形を変えている。
ご紹介
Profile
株式会社Adroaig
代表
声優の養成所に通う中で、競争の激しさや継続の難しさから「この仕事で食べていくのは難しい」と感じ、自ら仕事を取りにいく形へと転換。スタジオではなく自宅で収録・納品する“宅録”スタイルで活動を開始する。
当初は370円の案件など低単価の仕事を受けながら実績を積み、BMW案件やテレビ番組ナレーションをきっかけに仕事が増加。月20万円程度の収入を安定して得られるようになる。
その後、YouTubeチャンネル「ヒューマンバグ大学」への関与を機にナレーション案件が拡大。クライアントから複数の声を求められるようになったことを背景に、ナレーター事務所を設立。
現在は人材育成のためのスクールも運営している。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。