パン業界に入ったきっかけと、Le GOLDEN CROISSANT誕生の背景を教えてください
前職で勤務していた職場にベーカリー事業がありました。当時から”いずれ店舗を持つ事ができたらなあ”と考えていたところ、ベーカリー事業拡大のため店舗を持つことになり、担当者として異動したのがきっかけです。Le GOLDEN CROISSANTは、社内のスタッフ・南谷が幼い頃から温めていた「いつかパン屋をやりたい」という夢を形にしたお店。彼の熱意に惹かれ、私も運営面から関わるようになりました。
「パン」は文化として絶えない。流行や景気に左右されず、人々の暮らしに根ざした存在であることが、やる意義につながりました。だからこそ、この挑戦に本気で関われると思えたんです。

地域に根ざす挑戦と、クロワッサン専門店としてどんな苦労がありましたか?
以前は低価格帯の下町のパン屋で親しまれていた場所を、雰囲気も価格帯もがらりと変えて「クロワッサン専門店」として再スタートしました。当然、もともとの地域のお客様が離れてしまうこともありました。販売価格も倍近くに設定したため、最初は「地域に必要とされていないのでは」と不安に感じたほどです。
それでも、手間ひまかけて2日がかりで焼き上げたクロワッサンに「美味しい」と声をかけてくださる方がいた。その瞬間の感動は、今でも原動力です。「この価格でもまた食べたい」と言ってもらえる価値を、誠実につくっていこうと覚悟が決まりました。

“気持ちを届ける手紙”としてのクロワッサンとは?
Le GOLDEN CROISSANTの商品には、「ありがとう」「おはよう」「こんにちは」などの挨拶の名前をつけています。これは「パンが、手紙のような存在になってほしい」という願いから。
パンを通じて、ちょっと照れくさい気持ちをそっと伝えられる。そんな優しい文化を、日常に広げたいと思いました。「ありがとう、一つください」と注文するだけで、ちょっと心が温まる。それが“クロワッサンレターで”というコンセプトの核なんです。
店舗の前には黄色い郵便ポストを設置し、外観はウィーンの郵便局をモチーフに設計。365日、24時間営業というスタイルも「いつでも誰かに想いを届けられる」場所でありたいという想いから生まれました。

クロワッサンに特化した理由と、「ぺったんこクロワッサン」が生まれた経緯を教えてください
クロワッサンは“パンの中でもっとも変化を楽しめる”存在。整形方法や焼き方、トッピングの工夫次第で、無限に新しい展開ができるのが魅力でした。
中でもヒットした「ぺったんこクロワッサン」は、当店の店長のひらめきから誕生したもの。「ぺったんこにしてザラメをかけたら絶対うまい」という直感で生まれた商品が、SNSで大きく拡散され、テレビでも紹介されました。海外では「クロワッサンを潰すなんて!」と批判の声もあった一方、実際に食べた方の口コミで評価が広がり、今では看板商品になっています。
トレンドや映えを狙うだけでなく、「まず自分たちが本当においしいと思えるかどうか」を大切にしています。クロワッサンの生地は変えず、整形と発想で展開していく柔軟さが、私たちの強みです。

スタッフの雰囲気や、職場づくりで大切にしていることは?
うちは本当に“関西らしい”アットホームな雰囲気です。上下関係をつくらず、学生アルバイトとも「推し」の話で盛り上がるような関係性。ボケとツッコミが自然と飛び交う、笑いの絶えない現場です。
クロワッサンは手間がかかる商品。2日間かけて少数しか作れないこともあります。だからこそ、日々のコミュニケーションや心のゆとりが、良い商品づくりにつながっていると感じます。
現在は社員2名に対し、アルバイト・パートが大多数。就活やテストなどでの急な欠員も多いため、現在は採用にも力を入れているところです。おしゃれな店構えと、裏側の人間味のギャップが「働いてみたい」と思ってもらえる魅力になれば嬉しいですね。

Le GOLDEN CROISSANTが届けたい“体験”とは、どのようなものでしょうか?
「ありがとう、一つください」──そんな一言のやりとりに、ちょっとしたドラマを感じていただけたら本望です。
ウィーンの郵便局をモチーフにした外観、クロワッサンに添えられた挨拶の名前、それらが非日常感を演出し、お客様にとって“小さなご褒美”になるような時間をお届けしたいと考えています。
誰かに贈るのも、自分へのご褒美として買うのもいい。日常の中に“ちょっと特別な気分”を持ち込むこと。それがLe GOLDEN CROISSANTが目指す、パン屋以上の価値です。
今後の展望と、クロワッサンを通じた地域貢献のビジョンを教えてください
当面は関西エリアでの認知拡大に注力し、神戸阪急や梅田阪急などの催事にも積極的に出店しています。看板商品「ぺったんこクロワッサン」を軸に、「黄色いポストのパン屋さん」として、地道にブランドを築いていきたいですね。
将来的には、フランチャイズ展開も視野に入れています。レシピとオペレーションの再現性が高いため、地域に根ざした新たな拠点としての展開も可能だと考えています。
クロワッサンという“手紙”を全国に届けられる仕組みをつくることで、日々の幸せが広がっていく。そんな未来を、パンづくりを通して形にしていきたいと思います。
