広尾学園中学校・高等学校-池田 富一


広尾学園中学校・高等学校 理事長 池田 富一 IKEDA TOMIICHI

100年以上の歴史が物語る、世界水準の教育

 “自律と共生”を重んじ、時代と個を尊重する

当校は、1918年に板垣退助と夫人の絹子たちを中心に順心女学校が設立されて以来、教育の発展に尽力してきました。その後、2007年に広尾学園に校名を変更し共学化。2018年には創立100周年を迎えています。先人たちの意志を継ぎ、様々な難局を乗り越えながら歴史を重ねてきました。教育理念である「自律と共生」をもとに3つのコースを創設し、生徒たちがお互いを認め合い、高め合う存在となれるよう日々生活を共にしています。

約100年前の設立当初から、世の中は大きく変わり続けてきました。その中でも普遍的に変わらないことを大事にしながら、時代の移り変わりを見極め、理解していくことも当校の重要な役目と言えるでしょう。現代には現代の子ども達の望みや在り方があり、そのための教育体制を整えていくことが重要であると思うからです。そのため教育の方向性を明確に定めるだけでなく、生徒の個性を尊重し伸ばしていくことで各々の自律を図っていくことに注力してきました。

多様性に対応する教育と、3つのコース

先にも述べた通り、当校では3つのコースを用意しています。そして6年間の学びの中で、一人ひとりに合った最適なルートを設定し、生徒個々の夢の実現を後押ししてきました。

日本の国公立大学・難関私立を目指す本科コースでは、先取り学習を基本とし、効率よく学力を伸ばしていきます。医学部や理学部、理系に特化した医進・サイエンスコースでは、本格的な研究活動で未知なる現象にアプローチするための手法を様々な角度から学んでいます。そして三つ目となるグローバルな海外進学を目指すインターナショナルコースでは、世界へ発信し、世界をリードする人を育てるための語学教育と学力育成に特化してきました。中学インターナショナルコースでは、帰国子女を中心とするAGの生徒と、普通に日本の小学校で育ってきたSGの生徒が混合するクラス編成となっています。

中学校からコースは分かれますが、高校に内部進学する際にもう一度コースを選び直せる制度も設けています。例えば入学時はインターナショナルコースで、英語力を徹底的に身につける。その後、中学3年間を過ごしたのちに「将来の大学は日本の国公立に進学したい」となれば、本科コースや医進コースに進学するといった柔軟なコース変更を可能にしてきました。

無限大の想像力と可能性に寄り添う

実際に中学へ入学する時点で、自分の将来を決めている生徒はほんの僅かです。自分が将来何をしたいのか、そのためにはどんな学びが必要なのかが決まっていない方が大半を占めるのではないでしょうか。だからこそ広尾学園では柔軟なコース選択を基本にしながら、様々な経験を積んでいくことで、自分の将来を幅広く考えるためのサポートに尽力してきました。学生の時点で思い描く世界だけが全てではありません。あらゆる視座や選択肢を見せてあげることで、生徒個々の無限大の想像力や可能性に寄り添っていきたいと考えているのです。

また当校では、生徒たちが選択肢を増やしていけるよう、3つのコースがシナジーを生むための改革も柔軟に行ってきました。生徒自身がプラスに感じるような成功体験があれば、それらを最大活用してほしいからです。そうしたポジティブな事例は積極的に他のコースへ取り入れ、共有するようにしてきました。

例えばインターナショナルコースのSGの生徒たちは普通の英語の授業以外に、週3時間外国人の先生による英語の授業を受ける「SG方式」で学んでいます。この方式が大きな成果をあげたため現在では、本科コース・医進・サイエンスコースともに、週3時間は外国人の先生が実施する授業を取り入れています。さらに医進・サイエンスコースの高校生が、すべて英語で中学生を指導する、ALL English実験講座も行われています。まさに各コースがシナジーを生み、生徒の成功体験、ひいては学力を高め合っている好例と言えるでしょう。

“本物に触れる教育”が生徒の可能性を広げる

個々の可能性を引き出していく上で、生徒たちが学校生活を通じて「本物に触れる」機会をつくることは非常に重要な取り組みだと考えています。

広尾学園の特徴の一つに挙げられるのが、「キャリア教育プログラム」の実践です。年間を通じて様々なゲストを招き、教員だけでは教えることができない、本物に触れる機会を積極的につくってきました。例えば、毎年3月に行う「スーパーアカデミア」では各分野の一線で活躍されている30名以上の皆さんが講義を一斉に実施しています。さらに、現役の医師の皆さんのご協力で行われる「病理診断講座」では医療を希望する生徒たちが参加して病院で行われるのと同じレベルの病理診断を実習しますし、実際に大学付属病院での手術に立ち会う病院実習も行っています。

生徒の中には、「弁護士になりたい」「医師になりたい」といった多様な将来の夢、願望があることでしょう。しかし漠然とした思いがあるだけで、本物に触れ、身をもって体験したことがないという生徒が大半です。実際にその職業の人たちはどんなことをしているのかを知った上で職業や将来の選択ができるか否かは、将来を描くために重要な判断軸になるでしょう。だからこそ本物に触れてもらい、そうした体験をもとに明確なゴールを描き、学問のモチベーションに繋げてもらいたいのです。

地域と学校教育が手を取り合い互いに共存し合う

また現在進行形の実例として、港区にご協力を賜り、武井区長との「区政を語る会」で港区がもっと良くなるには何ができるのかという観点で区政について考えたり、港区に多い各国大使館を実際に訪問させてもらったりと、同区に校舎を構える当校ならではの、行政と一丸になった取り組みも進めてきました。

その他にも麻布地区の地域情報や活躍している方々に取材する「麻布みんなのラジオ」の日本語版、英語版を制作・運営するなど、地域との連携を生かした活動を展開。生徒たちのスキルアップを図るだけでなく、地域貢献の一助にもなっていると感じています。今後も地域と手を取り合い、多様な角度から生徒たちの成長につながることを積極的に取り入れていきたい。その先には必ず、一人ひとりが誇りを持てる自律と共生の世界が待っていると信じています。

Profile

広尾学園中学校・高等学校 理事長

池田 富一 IKEDA TOMIICHI