静岡大学と浜松医科大学の統合はどうなった?医学部の行方と、地方国立大の生き残り戦略

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福田充宏×池上彰×梅村和夫

FUKUTA×IKEGAMI×UMEMURA

静岡県

国立大学である静岡大学と浜松医科大学は、今「統合と再編」という大きな決断の岐路に立たされています。
今回のラジオ番組では、両大学の関係者とジャーナリストを交え、再編の意義と課題、そして未来の展望について前後編にわたり深掘りしました。

地方大学の生き残り策とは?──統合で広がる“学び”の選択肢
静岡大学は、実学重視の工学・情報学部を浜松に、文系・理系を横断する学部を静岡市に持ち、
浜松医科大学は、地域医療に根差した医学部・看護学科を擁する県内唯一の医学系大学です。

今、両大学が目指すのは、工学×医療×情報×社会科学の学際連携による新しい大学像。
産業界との連携、AIや光技術の応用、地域密着の人材育成など、まさに“ここでしか学べない”大学をつくろうとしています。

「医学を理解したエンジニア」
「看護の視点を持った情報科学者」
そんな次世代型人材が静岡から生まれる可能性に注目です。

統合が進まない現実──“静岡 vs 浜松”の文化的ギャップ
前向きなビジョンとは裏腹に、統合には大きな障壁も。
議論が平行線をたどる背景には、物理的距離(80km)だけでなく、文化・意思決定の乖離が存在します。

静岡大学側:「分裂して大学が小さくなるのでは」という不安

浜松医科大学側:「特徴を活かすには、再編して機動力を持つべき」という提案

静岡・浜松両地域の「対抗意識」や行政・報道の関与も複雑に絡み、簡単には進まない状況が浮き彫りになっています。

再編によって目指す大学像──“尖った”大学こそが選ばれる
静岡・浜松、それぞれの地域が持つ産業や文化を活かしながら、
再編によって「ここでしか学べない」専門性と学際性を併せ持った大学へ。

医療とロボティクスの融合研究

地域密着型の教育・防災・農業分野との連携

国際的にも通用する研究拠点づくり

学生にとっても、学びの選択肢が広がり、就職先やキャリアの幅が拡張されることは大きな魅力です。

「誰のための再編か」──学生・地域・社会の未来を見据えて
統合は目的ではなく、あくまで手段。
学生の成長、地域産業の発展、そして静岡という土地の持続可能な未来のために、大学がどうあるべきか。

対話の中で繰り返されたのは、「誰にとって意味のある統合か?」という問いでした。

すべては、“学生の未来のため”に。
大学統合は、静岡から新しい教育モデルを生み出す大きな一歩になるかもしれません。

静岡大学に医学部はある?──浜松医科大学との関係を整理する

まず、よく検索される疑問から整理します。静岡大学に医学部はありません。静岡県内にある国立の医学部は、浜松医科大学です。この2つの国立大学をめぐって議論されてきたのが、法人統合と大学再編でした。

2019年3月に両大学が交わした合意の内容は、「静岡大学に医学部ができる」というものではありません。まず法人(運営組織)を1つに統合したうえで、大学そのものを「静岡地区の大学」と「浜松地区の大学」の2つに再編する、という構想です。浜松地区側には、浜松医科大学と静岡大学の工学部・情報学部が集まる形が想定されていました。

この対談で静岡大学工学部長の福田充宏氏は、その意図をこう説明しています。工学部を目指す高校生に対して「静岡大学に医学部ができました」と伝えるより、「工学部と情報学部が浜松医科大学と一緒になって新しい研究拠点をつくり、新しい産業を生み出す人材を育てます」と伝えたほうが、はるかにインパクトがある――。単に大きな大学をつくるのではなく、それぞれを尖らせるための再編だった、というのが当事者側の説明です。

2019年の合意から現在まで──統合・再編のこれまで

  • 2019年3月29日/静岡大学と浜松医科大学が、法人統合と2大学への再編について合意
  • 2020年〜/静岡大学将来構想協議会などで協議。浜松市を中心に「静岡大学・浜松医科大学 統合・再編促進期成同盟会」が推進
  • 2025年10月/再選された静岡大学の日詰一幸学長が、合意を年度内をめどに一度リセットする考えを表明したと報じられる
  • 2026年/統合を伴わない形での連携が先行。静岡大学浜松キャンパスと浜松医科大学が部局間の包括協定を結び、医学・工学・情報学の連携を進めていると報じられている
  • 2026年3月11日/期成同盟会の意見交換会は継続して開催されている

つまり、合意から7年が経った現在も統合は実現しておらず、いったん立ち止まったうえで、統合を前提としない連携が先に動いているというのが2026年時点の状況です。なお両大学の公式サイトに掲載されている再編関連情報は2019年の合意時点までで、その後の動きは報道が先行しています。最新の状況は静岡大学浜松医科大学の公式発表をご確認ください。

では、なぜここまで話が進まないのか。そして、統合が実現していたら何が変わるはずだったのか。2025年に収録したこの特別対談では、当事者である両大学の関係者が、かなり踏み込んで語っています。以下、前編・後編の音声とあわせて、語られた内容の要旨をまとめます。

地方の大学はどう生き残るべきか?静岡大学と浜松医科大学の統合に迫る特別企画【前編】

【後編】大学統合の裏側──静岡×浜松が“分かり合えない”理由とは?

静岡大学のHPはこちら
工学部
情報学部

浜松医科大学のHPはこちら

なぜ統合は進まないのか──対談で語られた事情

後編の冒頭、司会の石塚が「ぶっちゃけ、なぜうまくいっていないのか」と切り出すと、福田氏はこう答えました。この問題については静岡大学側の事情が大きい、と。

前提として、静岡大学には静岡市と浜松市の2つのキャンパスがあります。その距離はおよそ80km、片道2時間ほど。30年ほど前までは工学部の学生も1・2年生は静岡キャンパスで教養課程を学んでいましたが、現在は1年生から浜松キャンパスで学びます。福田氏によれば、いまでは学生のほとんどが互いのキャンパスを行き来した経験がなく、教員も同様だといいます。実質的には、すでに2つの大学に近い状態だということです。浜松キャンパスから見れば、静岡キャンパスより浜松医科大学のほうがはるかに近い。

それでも話が進まない理由として福田氏が挙げたのが、静岡キャンパス側の教員に「静岡大学が2つに分かれる=大学が小さくなる」という懸念や不安が強いことでした。浜松地区側は、2つに分かれるからこそ機能強化ができ、特徴を出せ、高校生にアピールでき、予算申請もしやすくなると考えている。この認識の差が埋まっていない、という説明です。

ここで池上彰氏が持ち出したのが、静岡と浜松という地域そのものの関係でした。両者は文化が違い、対抗意識が強い。その一例として池上氏が挙げたのが、テレビの視聴率です。静岡県内の視聴率調査は静岡地区でしか行われておらず、浜松の話題を扱うと静岡での視聴率が下がってしまう。民放局にとっては営業成績に直結するため、どうしても静岡の話題が中心になる――。県全体への目配りとのジレンマを、長い歴史のなかで抱えてきたのだといいます。

解決の糸口について、福田氏は、統合再編のメリットとデメリットをしっかり議論し、特に静岡側の教員に理解してもらうこと、そしてステークホルダーへの説明が必要だと述べています。浜松医科大学副学長の梅村和夫氏も、浜松医科大学側から静岡地区の教員に対して直接説明をさせてほしいと申し込んでいることを明かしました。

統合で何が変わるはずだったのか──学生から見たメリット

前編で語られたのは、統合が実現した場合に学生が受け取るものでした。

教員が増える。梅村氏によれば、現在は浜松医科大学の教員が静岡大学で教えているわけではありません。再編統合が実現すれば、医学部の教員が工学系の学生を教えることも、その逆も可能になります。学生から見れば、学べる分野と教員の選択肢がそのまま増えることになります。

医学部と工学部は、実は同じ6年間。池上氏が指摘したのがこの点です。医学部は6年制。文系は4年で卒業しますが、理工系は大学院修士課程まで進むのが一般的で、こちらも6年。つまり医学部と工学部は、同じ6年間を一緒に学べるという構造的な相性の良さがあります。

すでに学部段階から交流は始まっている。梅村氏によれば、静岡大学の工学部・情報学部と浜松医科大学の医学科・看護学科の学生が年に一度集まり、社会課題をテーマにスモールグループのワークショップを行っています。医学を学ぶ学生と、工学・情報学を学ぶ学生とでは価値観も文化も大きく異なる。そこが噛み合わなければ相乗効果は生まれないため、卒業後ではなく学部の段階から文化を共有しておくことが重要だ、という考え方です。

予期されていない効果もある。池上氏が挙げたのは、サークル活動でした。別々だったサークルが一つになれば、異なる分野の学生同士が日常的に接することになり、学生の視野が広がる。教育研究の議論からはこぼれ落ちがちですが、実際には大きい効果だといいます。

経営面では、法人が一つになることで財政基盤が安定し、事務の配置を含めた効率的な経営が可能になると福田氏。ただし「重きを置いているのはあくまで人材育成」だと付け加えています。池上氏は、この形を三越と伊勢丹の例で説明しました。法人は三越伊勢丹ホールディングスとして一つになったが、老舗のブランドはそれぞれ残した。共同仕入れなどで経営は合理化しつつ、それぞれの特徴と顧客は維持する。それを大学で考えるということだ、と。

そもそも、なぜ地方に大学が必要なのか

対談の出発点として池上氏が語ったのは、地方大学が置かれた状況そのものでした。少子化で18歳人口が減り続ける一方、大学の新設や学部の増設は続いてきた。結果として大学全入時代となり、選り好みしなければどこかの大学には入れる状態になった。収容定員が増えたぶん、学生が集まらず定員を満たせない大学が、特に地方で発生している。女子大学が新規募集を停止する動きも起きています。

それでも、地方の大学が減っていってよいわけではない、と池上氏は言います。若者が都会に出て地方からいなくなれば、その地域の活力は失われていく。地方にきちんとした大学があり、そこで学べるという「知の拠点」があってこそ、地域は活性化する、あるいは少なくとも衰退を免れる。18歳人口が減っていく局面だからこそ、地方の大学がなぜ必要なのかを再認識する必要がある、という指摘でした。

静岡大学工学部の前身は、1922年に設置された浜松高等工業学校です。福田氏は、世界的な企業が集まる工業のまち・浜松の発展に貢献してきた実学重視の大学だと紹介したうえで、地域の企業支援、社会人のリカレント教育、小中学生の理科教育といった役割にも触れています。

統合しなかった場合、静岡大学はどうなるのか

対談の締めくくりで、福田氏はこう述べています。静岡大学が浜松医科大学と統合せずに、このままの形で維持できるとは思っていない――。そのうえで、静岡キャンパスにも「ここでしかできない教育と研究」を明確に打ち出せる余地があり、2大学とすることでそれぞれの特徴を明らかにできる、と語りました。大切なのは、分かれるか分かれないかではなく、分かれない場合に静岡大学がどう生き残るのかを議論することだ、というのが福田氏の立場です。

梅村氏が描く新大学像は、医学・工学・情報学・社会科学が連携し、地域と世界をつなぐ次世代型の総合大学。単なる組織の拡大ではなく、異なる学問分野の融合と競争から新しい価値を生み出すことを目指したい、と述べています。

池上氏のまとめは、少し違う角度からのものでした。18歳人口が減るなかで問われるのは、それぞれの大学が魅力をどうアピールするか。静岡と浜松に2つのキャンパスがあるということは、見方を変えれば互いに切磋琢磨できるということでもある。高校生にとっても選択肢が2つある。相手に負けない研究成果を出そう、優秀な学生を集めようという形で歯車が噛み合えば、静岡にとって良いことになるのではないか――。

大学の統合は、当事者だけの問題に見えて、実は地域の産業と将来の担い手に直結しています。合意から7年、いったんリセットされたこの構想を、静岡と浜松がこれからどう扱うのか。地方大学が置かれた状況を映す一つの試金石として、引き続き注目していきます。

※本記事は2025年に収録した対談の内容をもとに、Shikisai編集部が要旨をまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。統合・再編の進捗に関する記述は、両大学および浜松市の公表情報と各種報道にもとづく2026年8月時点のものです。

ご紹介

Profile

 福田充宏×池上彰×梅村和夫

福田充宏×池上彰×梅村和夫

FUKUTA×IKEGAMI×UMEMURA

池上彰
長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。

1973年にNHKに入局し、社会部記者として国内外の事件、災害、経済問題などを広く取材。

NHK「週刊こどもニュース」のキャスターとして“やさしいニュース解説”で広く認知され、2005年にNHKを退職後はフリージャーナリストに転身。

以降はテレビ・ラジオでのニュース解説、大学(東京工業大学他)での客員教授、講演活動、新聞・雑誌のコラム執筆など、多方面で活躍中。

著書に『伝える力』『おとなの教養』など多数があり、一般向けに社会や国際問題、経済の仕組みをわかりやすく解説する姿勢に定評がある。

福田充宏
1962年生まれ。静岡県磐田市出身。
静岡大学工学部機械工学科教授、博士(工学・京都大学)
スズキ株式会社 社外監査役。
専門は圧縮機や膨張機といった流体機械および冷凍サイクル関連技術(性能・信頼性向上、各種測定技術の開発)で、低炭素社会実現に向けた省エネルギー技術や次世代ヒートポンプの研究開発に取り組む。
冷凍・空調メーカーや輸送機器メーカーを代表とする産業界にも精通し、国内外の学会・プロジェクトで委員・代表を務め、外部資金を多数獲得。
教育・研究双方での実績が多く、地域産業界と連携した教育プロジェクトも積極的に推進している。

梅村和夫
浜松医科大学医学部医学科を卒業。浜松医科大学薬理学講座教授を今年3月に退任し、4月より理事・副学長に就任。

専門は循環薬理学、臨床薬理学、医薬品開発。

基礎研究から臨床応用を目指した橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)に取り組み、抗血栓薬や脳梗塞治療薬の開発に携わる。産学連携によるレーザー血栓溶解療法の医療機器開発も手がけた。

また、医学教育にも注力し、医学部6年間を通したカリキュラムの開発や、学生評価方法の改善などに取り組んでいる。

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